2008,07,04, Friday
布というのは織る際に縦糸に糊付けするらしいが、生地店で布を購入してきた際、その布に糊がついているか、あるいはすでに糊抜きされているのか確かめる手段としてヨウ素液で試験する方法があります(理科の実験などでやるヨウ素液とデンプンの反応を利用したもの)。
本実験では、ヨウ素液として、薬店で簡単に手に入る希ヨードチンキ(ヨウ素を含む)を使用。ただし、そのままでは反応が強すぎてかえって判定が困難になるため、水で約30倍に薄める。 購入した布の一部を切り取って、ガラス棒(のようなもの)でヨードチンキ液を1~2滴ほど垂らす(布の端に垂らしてもいいけど、作業中にヨードチンキが飛び散ったりすると、せっかく購入した布のあちこちに黒い斑点を作ってしまいかねないので、やはり切り取ったサンプルがよろしい)。 今回は生地屋から購入したシーチング、生地屋から購入した生成の麻布、画材用の麻布(膠引き済み)、薬店のガーゼでテストしてみた。画材用の麻布は生キャンを使用したかったのだが、手元にあったのが膠引き済みのものだけだったので、その裏側を使用することに(割と高級な部類のキャンバスである)。ガーゼは薬局で購入したもので、精錬・漂白されている布の典例として実験に加えてみた。 写真は左からシーチング、麻布、画材用の膠引き麻布、ガーゼ。ヨードチンキにより青紫色に着色された場合はデンプン糊がついている可能性あり。黄色いままの場合は、デンプン糊はないであろうということで。見たところ、シーチングは糊がある模様(まぁ、実際は布に触っただけで分かるのだが)、生地店の麻布もデンプンの反応が出てるっぽい、画材用の膠引きキャンバス(の裏側)はほぼ無色、ガーゼもほぼ無色。 なお、染色の場合は、糊が残っていると染料をよく吸ってくれないため、糊抜きは重要な行程だが、絵画の支持体として使用する場合どうなのかはよく知らない。デンプン糊は用紙のにじみ止めとしても普通に使われていたり、ときには絵画用地塗りの媒材とされる記述をみることもあるので、べつになんか悪いというわけではないと思うが。 というわけで、染料関連の本で布の精錬、漂白の部分を読んでいて、糊が付いているかどうかの判別方法を知り、思わずやってみたくなったので、そのレポート也。素人実験なので、そのつもりで読んでください。 |
2008,05,26, Monday
自然染色なるものをやったことがなかったので、今回はそれを試してみる。
前からやってみたいとは思ってたのだけれど、正しいやり方などを調べるために書籍など借りてきたりしていたが、いまいちわかりやすい手引き書がなく、というかこんなふうに調べているといつまで経っても先に進まないので、適当にやってみることに。手元に数年前に入手してそのままになっているコチニールカイガラ虫があるので、それを。コチニールっていうと、ヨーロッパ的には、大航海時代に南米から入ってきて、それまでのケルメス染料を駆逐したというやつですね。 まずはカイガラ虫。ずいぶん昔に俵屋工房より購入したのだが、絵画材料としてどう活用すればよいか用途が見いだせずに放置していたもの。 染める対象たる布。コチニールの場合、動物性の繊維の方が染まりやすいというので、ウールとシルクを(ヤフオクで)入手。 カイガラ虫を擦りつぶした状態。 ガーゼにくるんでお湯に入れるとさっそく色が出てくる。 十分色が出てきたところで布を投入して煮る。非常に濃く染まっているのがウール、薄いピンク色なのがシルク。さっぱり染まってないのが、私が目を離したすきに親が勝手に入れたなんだかわからない布。ずいぶん違うけど、布の種類によって適温があるらしいので、その辺の違いなのかも。 つぎに色を定着させるために媒染するわけなのだが、今回はみょうばんを利用。コチニールの場合、先にみょうばんで媒染してから染めた方がいいとネットに書いてあったのだが、ちゃんと定着するんだろうかという思いがあって、後にしてしまった。とりあえず、少量のみょうばんを入れたお湯をタライに用意して、染液の鍋から取り出した布を入れてみる。 うーん、でも、コチニールの液のなかにみょうばんをぶっこんでしまった方が早いんじゃないか、などと考えて鍋にいきなり入れてみたところ、茄子漬け色になってビックリく。キタネェー色だな。 しばらくみょうばん液につけたあとに干す。これはシルク。なかなか上品な色じゃないですか。 こちらはウール、すごい濃いなぁ。少々斑があるが、これは染液に入れるときにまんべんなく水で濡らされていないとこうなるらしい。 完成の図。 さて、こうなると、体質顔料に染めてレーキ色が作れないだろうかという話になりそうだけれど、たとえ出来たとしてもブリードが心配で使えないので却下と予め宣言。 |
2008,05,07, Wednesday
「鉛白作りも」というコメントがあったことだし、鉛と酢で鉛白を作る方法を試みてみることに。
要は、鉛板を酢の蒸気にさらすことによって腐食させて白い顔料を得るわけで、蒸気にさすために古今様々な工夫がされてきたわけですが、今回は最も単純な方法、壺の中に酢を入れ、丈夫に鉛板を置くというのでいってみようかと。なお、予め断っておくと、単に興味本位の実験としてやるだけで、効率よくとか品質等は特に考慮してませんので。 鉛の板はどこで買えばいいのかわからなかったので、生け花道具の鉛製花留を購入。他にはトレーニング用の手首や足首に着ける重り、釣り具の重りにも鉛板が入っているので、その辺のお店で入手できると思われ(鉛板はとても柔らかく、厚いものでも曲げたり切ったりということが簡単)。酢に関しては、普通の食酢でもいけるかと思うが、それよりも濃度の高い局方の酢酸あたりが良いだろうと薬局へゆく。ところが酢酸は置いておらず、替わりに氷酢酸を手渡される(氷酢酸は純酢酸と呼ばれる純度の高いもので、引火性及び腐食性なので取扱いにはくれぐれも注意)。というわけで、今回は氷酢酸を水で薄めて使うことに。 ガラス容器に酢酸を入れ、その上に鉛板を置いて蒸気に晒すのだが、鉛板が直接酢酸液に触れないように適当な磁器の器を置いて台にし、そこに安定して乗るような形に鉛板を曲げておいてみる。ちなみにガラス容器も磁器も100均で購入。なお、ガラス容器で行なうのは、中の様子の変化を随時確認するため。それにしても、もともと酢の臭いが苦手なのだが、酢酸もキツイ。 しっかりとフタをして10日ほど放置し、出てきた白顔料をかき取って、また戻して10日後にまたかき取るということを鉛板がなくなるまで続ける予定だが、たぶん途中で飽きてしまうだろうな。数日かけてゆっくり変化があらわれるのかと思いきや、数時間後には鉛板の表面が白くなり、翌日には写真(下)のように鉛板の表面にびっしりと白いものが。これが鉛白であろうか。 ついでに、スーパーで買ったワインビネガー(酸度7.0%)でも試してみる(写真下)。これでも数時間で表面に白いものが出る。 |
2008,04,28, Monday
■毒物注意■
鉛白を熱して、マシコットあるいはリサージと呼ばれるものにしてみる実験。 マシコットはかつて西洋絵画で使用されたすず鉛黄色(lead tin yellow)の名称とされることもあるようですが、今回は鉛白を加熱して作る一酸化鉛(PbO)。マシコットとリサージは顔料屋では同じものとして販売していることも多く、正直のところ両者の厳密な違いが自分には未だによくわからないのだけれども、例えば『絵画材料事典』の記述からすれば、マシコットは鉛白をゆっくりとローストした溶融していない一酸化鉛であり、一方リサージは溶けた金属鉛を直接酸化させてつくる溶融した酸化物、というのが書籍やネット上によく書かれている。けれども本によって説明が随分異なるのが悩みの種である。いずれにしても今回行なうのは鉛白を熱して黄色またはやや赤味のある顔料を作るという実験である。 まずは100均のフライパンに顔料を載せる。鉛白は毒性もあるのでアルミホイルに包んで加熱するという方法もあるが、今回は空気に触れていなければならないのではないか?と思ったのでフライパンを使用。 どの書物でもひかえめにゆっくりローストするよう書かれているので、弱火で加熱。と言っても直火なのでけっこうな温度だと思うが、間もなく黄色みを帯びてくる。マシコットあるいはリサージの説明では、色は明るい黄色~やや赤っぽい黄色、オレンジぐらいの範囲とあるが、顔料屋で販売されているマシコットのサンプル画像などを見ると、白っぽい黄色、あるいはクリーム色と呼ばれるようなものが多く、この写真の時点で終わりでもいいかもしれないが、まあ、ものは試しなのでそのまま加熱を続ける。 だんだん赤味を帯びてくる。事前にネット顔料屋のサンプル画像をいくつか見てまわったのだが、リサージの名で売られているものと同じような色合いっぽい。マシコットというと黄色、リサージは赤(オレンジ)という説明が多い。顔料サンプル画像もそうである場合が多いが、しかし逆の説明がされている本もあったり。 ところで、焼いているうちに顔料が妙に飛散しやすくなっているような気がした。毒物であるからして気を付けなければ。 完成(?)した顔料。ちなみに、マシコットもリサージも購入したことはないので、これでいいのか悪いのか不明。気が付いたことがあれば、コメント欄にてご指摘を。 |
2008,04,15, Tuesday
各溶剤でダンマル樹脂をどれくらい速く溶解できるかテスト。
特定の樹脂を溶かすスピードで、溶剤の溶解力を語れるわけではないと思うので、飽くまでダンマルを溶かす速度に注目したテストである。それに、室温などの条件にも左右されると思うので、ある程度の目安になるかどうかぐらいの感じと思ってほしい。また、ニスとして使用した結果どうであるかなども、また別の話である。 すべて、ダンマル樹脂20gに溶剤40gで試験。単に、小瓶に樹脂を入れ、溶剤を注いでフタを閉めただけで、瓶底に樹脂が溜まるので、技法書などに紹介されているような、袋に入れて吊す方法と比べると、余計に時間がかかっていると思われる。 ■H社 ペトロール ■K社 ペトロール 上記2種は、6時間で半分ほど溶解、12時間で完全に溶解。酷い濁り、ゴミ以外の残留物ほとんどなし。今回の試験で最速の溶解。 ■ルフラン クイックドライング・ペトロール 樹脂と溶剤を混ぜた直後に激しく白濁し、以後もなかなか溶解しない。ただし数日後には8割方溶けて、白濁もある程度おさまった。溶解に時間がかかり、白濁し、溶けきらないことがあるという、技法書のペトロール記述でよくみられる通りの結果。 ■H社 オドレスペトロール ■W&N サンソダー(微臭ペトロール) 上記2種は、樹脂の表面を白濁させるだけで、溶解する気配無し。 ■K社 アルファピネン ■H社 テレピン ■W&N イングリッシュ・ディスティルド・テレピン ■マイメリ テレピン ■マイメリ レクティファイド・テレピン 上記5種は厳密には溶解する速度に若干の差があったが、36時間後にはどれも同じようにほとんど溶解しており、特記するほどの違いは見られなかった。 ■ルフラン スパイク・ラベンダーオイル 非常にゆっくり溶解する。10日経ってもまだ溶解の途中と思われる状態が続く。白濁は全くない。ゆっくりではあるが、マニラコーパルも溶かしたりするほどなので、溶解力が劣るというとか、そういう問題ではないと思う。 ■無水エタノール 樹脂が白くなっただけで、全く溶解せず。 総括 ペトロールは、蒸留の温度など、製造方法によって性質がかなり異なるそうであるが、確かにものによって、非常に速く溶かすものと、なかなか溶けないものがあった。また、無臭、低臭ペトロールはダンマル樹脂を溶かすような能力は全くと言っていいほどなかった。後日、加熱してみたが、温めているうちは溶けるものの、冷めるとすぐに沈殿してしまった。テレピンもものによって、性質が異なったりするそうであるが、国内外の数種をピックアップしてみても、そんなに極端な差はなかった。アルファピネンとテレピンも、べつに問題にするほどの差はなかった。 |
2008,04,14, Monday
オーカーやシエナなどの土製顔料を焼成すると赤味の顔料(バーントシエナ等)になるが、実際に自分の目でその変化を確認したわけではなかったので、この際と思い、なんとなくやってみる。焼き色の試験方法は、Anne Wall Tomas, COLORS FROM THE EARTH等にも載っているが、なんか面倒なので、100均で買ったフライパンに顔料を置いて、カセットコンロであぶってみた。
下はシエナ土を焼いたもの。 途中、真っ黒になったので、火が強すぎたかと思って焦ったが、冷めると非常に綺麗な赤色に。 こちらはオーカー。 こうやって、自分でやってみると、赤い土製顔料に愛着が湧いてくるというか、なんかいつもより非常に美しく見えるのだが、気のせいか。 ※顔料によっては、熱すると毒ガスを発生するものもあるので、不用意にマネしないでください。 |
2008,01,22, Tuesday
手持ちの顔料が石膏(硫酸カルシウム)なのか白亜(炭酸カルシウム)なのか不明になったとき、どちらか判別する方法として、希塩酸をかけるという手があるけれど(炭酸カルシウムだと二酸化炭素の気泡が発生して、泡ブクが見られる)、希塩酸を所持している人は少ないであろうから、レモン汁で代用できないか、という目的で、ちょっとばかり実験してみる。
100円ショップで買ってきた磁器?の皿に各顔料をのせ、スーパーで購入したポッカのレモン汁(約150円)をかけてみる。 結果は画像の通り。 ●H社の下地用ムードン(画像右上)、激しく大きな泡が立つ。 ●同仕上げ用ムードン(画像右下)は、普通に泡立つ ●沈降性炭酸カルシウム(下段中央)、細かい泡が立つ。 ●左上はボローニャ石膏(二水石膏)、泡立つ様子はない。 沈降性炭酸カルシウムは、細かい泡が出るけど、すぐに消えるので、しっかり観察しないと見落とす可能性もある。それと、実はボローニャ石膏も良く見ると泡?と思われるものがあるような気もするが、天然品であるゆえの不純物か、あるいは右の炭酸カルシウムが混ざってしまったか。いずれにせよ、天然の白亜と、石膏を比較する分には、かなりはっきりと判別できる。 |