2022,06,17, Friday
鈴木勝王(著)『ノアの方舟はなぜ沈まなかったのか 石油文明の夜明け前』を読んでから、ビチューメンについて勉強してみようという気になっていた話をちょっと前に書いておりましたが、さっそくビチューメン顔料を購入してみました。ゼッキのです。
そして、原油も購入してみました。 これも広義のビチューメンといえるでしょう。これで古代メソポタミアのように工芸品を作るときの接着剤として使えるか、描画材になるか、ビチューメン顔料を作れるか試したいところです。ビチューメン、瀝青、石油、ビチュームなどという諸々の用語についても、実際にはけっこう曖昧なものですが、私としてはよく理解して使えるようにしたいのです。本を読んだだけではあまり理解は進まないので、現物を触って性質を確かめながらゆきたいかと。 シュメールのウルのスタンダードみたいなものはビチュームでラピスラズリや貝などのパーツを接着していたとか。 これ、昔大英博物館に行ったときに撮影した写真なんですが、初期のコンデジの為、画質が残念なんですけれども、この頃はそれなりの画質に思えたものですが、時の流れを感じてしまいます。しかし、この頃は私はラピスラズリばかりに目がいっておりましたが、ビチューメンところまで来られた的なあたりも時の流れ的なものを感じられなくもないところです。なお、日本には原油が沸き出すところは限られているので、多湿な気候故に漆が工芸接着の主流になったともいえるでしょう。その土地にあったものが使われるということでありましょうか。 以下のような彫刻の目の象眼の接着、あるいは線描もビチューメンであるらしい。 ※これはwikipediaからの写真です。 そして以下のようにまるで粘土みたいにビチューメンを使って立体物を作る例もあります。 https://twitter.com/asmaaan208/status/985291135789789184?s=20&t=DqZjfD1Lod1v3mkbHMF5-Q すくなくとも数千年前の遺物が残っているわけで、油彩画よりも歴史は相当古いといえるでしょう。18世紀くらいから研究は進んでいたでしょうから、ビチューメンとか蜜蝋とか油絵の具に入れてしまいたくなる気持ちもわかりますね。私は蜜蝋はけっこう入れます。 ビチューメン繋がりで、ヴァン・ダイク・ブラウンも買ってみました。 ビチューメンが原油系なら、こちらは石炭、褐炭系のブラウンという認識でよいのでしょうか。ビチューメンは中東の油田地帯のもので、ヴァン・ダイク・ブラウンはドイツの褐炭鉱床から得られるヨーロッパ系のものという認識でよろしいのでしょうか。この辺も勉強しなおさねばなりませんが、Natural Pigmentsの説明によるとヴァン・ダイク・ブラウンといいつつビチューメンが入ってることもあるとか。なお、上記写真にはNatural pigmentsから買ったカッセルアースも写っておりますが、これもたぶんヴァン・ダイク・ブラウンと意味は同じかと思いますが、その辺もちょっと自信はないわけですが、調べつつ頭の中を整理したいところです。 なお、カッセルアース、ヴァンダイキブラウンですが、ライターで火を付けるとチリチリと燃えるんですが、ビチューメンに火を付けたら、すっごい燃えるのでしょうね。しかし、サンプルの量が少ないので大事に試験したいところなので、着火するのは諦めておかねば。 |
2022,06,10, Friday
テールベルト顔料づくりの為、以前、海緑石(グロコナイト)を砕いたことがありましたが、今度はセラドン石(セラドナイト)を砕いてみました。
ヤフオクだったか、メルカリだったかで入手したものですが、神奈川県産だったかと思います。 神奈川県の河川では以下の動画のようにセラドン石を拾えるみたいですね。 このような場所から採取されておりますと、やはり丸みを帯びたつややかな感じに見えるように削られております。 テールベルトが何であるかを、より詳しく確認しておきたいと思っておりまして、実際に砕いてみたりしているわけですが、テールベルト、緑土と言われる顔料の鉱物名に関しては、例えば絵画材料事典ではセラドン石と言っており、あるいは別の文献では海緑石と言っていたり、あるいは両者であったりしますが、両方とも雲母グループの鉱物でよく似ており、さらに色味に個体差が大きく、区別がちょっと難しいところもあります。この件に関しては、以下の論文が参考になろうかと思います。 ・日本における緑色顔料「緑土」の使用について http://www.jssscp.org/files/backnumbers/vol46_4.pdf さて、セラドン石を砕こうと思ったわけですが、硬度2、比重3とは聞くものの、けっこう固くて、最初に粗く砕く段階は乳棒では歯が立たず、ハンマーを使いました。 この辺は個体差があろうかと思います。 ある程度の小ささまで砕けば、あとは乳鉢乳棒で砕き、摺ることができます。 このあたりはやはり硬度2かな、という感じです。しかし、この時点でなかなか魅力的な色味であります。 さて、ここまで砕いたことで、手を止めましたが、印象としては前回砕いた海緑石よりは明るい色味に見えます。 セラドン石の色は薄く明るいものから、青みがかったものまであり、多少砕いた経験ではまだまだ何もわからぬといえるかと思います。しかしながら、鉱物画像などを画像検索して眺めている感じでも、海緑石の方が色が暗めの傾向がありそうには見えまして、セラドン石テルベルトは明るい灰緑色、海緑石テルベルトは暗めの濃灰緑かな、という予想を立てております。 なお、参考までに、以前、海緑石を砕いたときは以下のような色でした。 市販絵具のテールベルトは様々の顔料が混ざっており、テールベルト顔料のみを使った絵具というのは少数派であるかと思われます。また、テールベルト顔料として売られているものも、ほんとうに緑土だけであるか怪しげなところがあります。しかし、比較的信用できそうな緑土顔料でも、明るい灰緑色からやや暗めの深緑灰色みたいなものもあって、それはこの石の違いなのであろうかと思っているところです。どちらの石もいずれは欧州産のものを入手して砕いてみなければとは思っております。テンペラ画人肌の部分の下地として使われるという緑土はどのあたりの色味が相応しいんでしょうかね。この用途では一般的な市販テールベルト顔料ではなくて、限りなく真性緑土で構成されてそうなものを購入しないといけないというとこもあるかもしれません。まぁ、逆に油彩画では、市販のチューブ絵具の方が使い勝手がよさそうではありますが。 |
2022,06,05, Sunday
鈴木勝王(著)『ノアの方舟はなぜ沈まなかったのか 石油文明の夜明け前』を読んでいるのですが、メソポタミアの美術工芸品の数々をビチューメン視点で語っており、今まで読んで本ではだいたいラピスラズリをはじめとする貴石類や金属類をメインとした説明であったのに比べると、ひたすらビチューメンの活用を追っているのです。これがなかなか面白いのです。ビチューメンと言えば油彩画では描画層の亀裂ひび割れを起こすとされてネガティヴなイメージを持っておりましたが、しかし油絵から離れて、広く文化財全般を見るような観点で評価すると非常に重要な存在なのでありますな。ということにようやく気がつきました。なお、ビチューメンは石油の話は除いても、この本の古代文明解説の視点はちょっと変わっていて、はっとさせられるところが多々ありますので、その意味でも一読の価値ありといえるでしょう。
というわけで、私はビチューメンの重要性に気がつきましたので、さっそくビチューメンが欲しくなったのですが、絵画用の顔料となっているものはいくつか売られているのは知っておりますが、そうではなくて、原油のねっとりした感じみたいなのが欲しいし、それを接着剤にしたり、粘土みたいに扱ってみたいというのと、あと、地面から出てきているところを見たいという願望もあります。 秋田県に石油産出地が多くあるようなので、そちらを見学してみたいかと思います。ついでなので、北東北をちょっと旅行してみようかという計画を考えております。秋田県の産油地を見たあと、青森の三内丸山遺跡を見て一泊し、それから八戸鉱山の石灰岩地帯を見て、岩手県の久慈の琥珀を見て帰宅するというふうに考えております。あるいは、さらに史跡と博物館、社寺を踏破しておくとしたら、途中でもう2泊ぐらいしてもよろしいかもしれません。これはけっこう楽しみですな。 それと実験用の原油も欲しいところです。国立科学博物館で原油が販売されて話題になったことがありましたが、東北だとどこで買えるでしょうかね。ちなみに、貝紫に関しては、アカニシ貝またはイボニシ貝の活のものが売ってないか、近所のスーパーを踏破したましたが、そんなものは売ってませんでした。 |
2022,05,18, Wednesday
画家鳥越一穂氏の作品をお預かりしております。
鳥越一穂氏、および作品等について詳細は下記を参照ください。 http://torigoeart.wixsite.com/medici 円柱構造物付祭壇風額縁に小物棚をイメージしたトロンプルイユとなっております。 モチーフを見てみましょう。※Twitterでちょっとだけご本人からモチーフについて聞いております。 瓶に入ったラピスラズリとマラカイト、左下には水晶らしきものが見えます。右側の瓶に入っているのは真珠、それからサンゴのカケラだそうです。 なお、画面に埃のようなものが見えますが、ガラスで遮られていないので埃が付きます。鳥越さんからはたまに埃を払うように言われております。 玉虫色の甲虫が見えますが、これはニジイロクワガタだそうです。右側の石ははっきりわからないものありますが、中段の赤いのはガーネットだそうです。トンボの横の青い石は、トルコ石をスライスしたものだそうです。 画面上の中央には大顔面(ルキウス・ウェルス帝)面取り版の石膏像ミニチュア。その横にはファン・アイク「アルノルフィーニ夫妻の肖像」風に自画像と室内が描かれております。このモチーフの組み合わせに、隠喩か何か図像的な意味があろるのだろうかと思って聞いてみましたが、特にはないようです。 なお、写真では表現しづらいのですが、照明の明るさをやや落として、薄暗い状態で見るとなかなかの雰囲気があります。バロック期のトロンプルイユ画、あるいは広く静物画なども、電気照明もまだ存在せず、窓も小さかったでしょうから、そのような状況で見ていたのかというふうに考えて状況を近づけるというのもよろしいかと思います。バロック期のトロンプルイユ画を画像や画集で見るときも、その辺を考えて鑑賞したいというふうに思っております。 |
2022,04,03, Sunday
昨年は夏から秋にかけて自宅のメタセコイアから樹液をちまちまと集めておりましたが、それらの樹液(たぶん樹脂なので、樹脂と呼ぶことにします)の溶剤テストを決行してみようと思います。
採取してから半年ほど経ちましたので、すでに揮発成分は充分に抜けているかと思います。小さい塊ですからね。 メタセコイアの樹脂ですが、『琥珀』 (飯田孝一)など樹脂関連の書物を参照すると、どうもメタセコイアは琥珀になる可能性のある樹脂を産するようでありまして、そうすると現在コーパルという樹脂にあたるのではないかという感じがしておりまして。コーパルは鉱物界では琥珀になる前段階の半化石樹脂を呼ぶ名前ですが、産業的なコーパルは別に半化石という程古いものではなく、アガチス属などの生きた樹木から採られているようであります。鉱物界で半化石樹脂として売られているコーパルも、放射性炭素年代測定をするとほとんど新しいものであることが多いようです(Plant Resins)。 樹脂の名称の変遷は複雑で、それを整理するのは一筋縄ではいかないわけですが、ひとまず話を限定的にして、フタバガキ科のダンマル樹脂と、アガチス属のコーパル樹脂の性質の違いに搾りますと、前者が軟質でテレピンに溶けるがアルコールに溶けない。後者は硬質でテレピンに溶けないがアルコールには溶ける。ダンマルはテレピンに溶けるので、容易に油彩画用液として使えるが、コーパルはランニング処理が必要。という感じあります。 というわけで気になるのは、メタセコイア樹脂はどっちの性質なのかという点です。 テレピンと、無水エタノールと水でテストします。 樹脂は各2g弱、それに約4倍の溶剤を投入しました。 テレピンに溶ければダンマル的な、無水エタノールに溶ければマニラコーパル的な、水に溶ければアラビアゴム的な性質である可能性があります。これだけで何か判明するわけではありませんが状況証拠のひとつにはなりましょうかと。 というわけで、どうなるでしょうか。 と思ったら1時間くらいでおおよそわかりました。 エタノールのサンプル瓶だけがすぐに樹脂が柔らかくなり、その後ドロドロになって下に溜まってしまいました。たぶん棒で引っ掻いたりしてればもっと溶けると思います。これはマニラコーパルとだいたい同じ感じであります。いや、むしろマダガスカルコーパルに近いか。いずれにしても予想した通りになってくれました。これだけでこの樹脂がコーパルだと確定できるわけではありませんが、自宅の木から析出してるのがコーパル樹脂かもしれないという可能性が高まっております。 |
2022,03,29, Tuesday
酸化鉄の赤、日本ではベンガラと呼ばれるところの顔料を作ってみたいと思います。
なお、テキストしては以下の論文を参考にしました。 児玉大成「亀ヶ岡文化を中心としたベンガラ生産の復元」日本考古学12巻(2005)20号 https://doi.org/10.11215/nihonkokogaku1994.12.20_25 できれば赤鉄鉱くらいは自分で見つけてきたいところですが、鉱物採集の知識がまだ足りず、今回はネットで買った腎臓状ヘマタイト原石を使うことにします。 楕円的な丸みの形状を腎臓状と言うらしいです。ヘマタイトはさまざまの形状や色の鉱物があって、たぶん、ツルッとした感じのものが固いのだと思いますが、固いものだと硬度5を超えてくると思われます。かつては鏡状のものや、つるっとしたものなど集めて、今も手元にあるのですが、全く赤くないのですが、でも条痕色は赤いので、砕けば赤、またはすくなくともパープルっぽい赤くらいの顔料にはなるかと思われます。 前傾の論文では赤鉄鉱の頁岩を採集し、頁岩は固いので、そこに付着しているコークス状の赤い部分を使って縄文人がベンガラを作ったという論になっております。コークス状の意味は最初ちょっとわからなかったのですが、石炭のコークスではなくて、多孔質という意味のようです。 実は今回の腎臓状ヘマタイトもひっくり返して裏を見ると、多孔質そうな赤い部分があるので、ここを中心に使えそうな気がします。 さて、これまではハンマーや乳棒で砕いておりましたが、今回の原石はちょっと堅そうに見えまして(実際はそうでもなかったのですが)、縄文人と同じように、石で砕いてみたいと思いました。 自宅の庭石の中で平らな感じのものを選び、タワシやらクレンザーやらで、せっせと洗いまして、表面の汚れと藻のような植物を落としました。 で、写真のような丸みのある堅くて重くて、ある程度の大きさの石で摺り潰します。 まずは石の重さを使って上から叩き潰す感じで、ズシズシと潰します。 ハンマーでやるとどうしても飛び散ってしまうのですが、叩き用の石がそこそこの大きさだと、破片がどっかに飛んでいくようなことが少なくて、とても良い感じです。 ある程度砕いたところで、赤い部分だけ集めました。 この部分や柔らかいので、乳鉢と乳棒であっという間に細かくできます。 それから、腎臓状の黒い部分。 これもまぁ、細かく砕けば赤色になるとは思いますが、こちらは別に粉末化してみます。赤いコークス状部分よりちょっと堅いような気がします。 しかし、叩くときに使った石を、今度は体重をかけてハンドル操作風に左右に円を描いて擦ってみたところ、実に簡単に細かくなってくれました。 こんな感じであります。 概ね赤褐色になりました。先に砕いた赤いコークス部分を砕いたものより若干彩度が落ちてはおりますが、乳鉢もさらに砕けば差は縮まるかもしれません。それにしても、大きな石で砕くとめちゃくちゃ楽ですね。乳棒よりずっといい。ポットミルよりも短時間で済みそうです。これでマラカイトも砕いてみたいところですが、台の方の庭石が少々柔らかいので、堅い庭石を探さねばなりません。 そして、この後水簸に進むわけですが、件の論文では、土器で煮沸していたようで、そうすると鮮やかなものになるように読めるのですが、加熱しない水簸と何が違うかは気になるところです。200℃くらいで加熱すれば、赤色度は上がるかと思うのですが、お湯で煮るということは最大でも100℃なのではないか、という感じもありますが、とりあえずは鍋で煮てみたいと思います。 |