2022,03,11, Friday
気がつけばもう春っぽくなってきておりますので、植物を買う時期になっております。毎年、いろいろ考えつつ、主に色材となっているような植物を中心に、美術史に関連するものなども買っていたりするのですが、日本の東北で育ちそうなものはたいてい植えた気はしているつもりになったりしますが、よくよく勉強を続ければ、まだまだ手の掛かってないものは多いのです。終わりはないと考えてよろしいところでしょう。
というわけで、まず本シーズン一発目ですが、クロウメモドキ(ラムナス)の苗を買いました。 実から緑の染料が採れるようで、それが本来のサップグリーンですが、絵画材料事典によれば、潰して液にするぐらいで緑にはなるようで、ドロドロの状態で家畜の臓器の革袋に入れて売られている場合もあるし、ミョウバンに染着することもあるというふうに書いているけれども、それは昔の話でありましょう。現在市販のサップグリーンは合成有機染料であり、本物の方は耐光性も甚だしく悪いようなので、売られることもないあまりないでしょうし、使うのも推奨できないかと思われますが、それはともかく緑が採れるか試したいところです。植物は緑色をしていることが多々ありますが、実用的な緑の染料が採れることはあまりないので、気になるところです。なおこの果実は人体には有毒のようです。 それから植物ではありませんが、土性顔料について試してみたいことが多々あります。幸い、大きなポットミルと回転台を譲り受けることができましたので、こちらも活用できないかと考えております。 以前このブログにも書いた小さなポットミルと回転台ですが、試行錯誤した末に顔料作りに役立つという程のものではなかったという感じであります。やはりある程度の大きさは要るかと思います。このポットミルは中のセラミックボールもずっしりと重く、大概のものを細かく粉砕しそうな予感がします。もっとも、まだ使ってみたことはないのですが。 ちなみに、回転台の方は、ロクロ回転機でありまして、その上に棒があって、ポットミルを回転させられうようになっている模様です。 ですから、本来は釉薬を作るといいますか、釉薬を砕くのが目的なのかと思われます。 |
2022,02,13, Sunday
昨夏にせっせと鉛板から発生させた自製鉛白、まだまだありますので、これを油絵具にしてゆかねばなりません。
鉛白を発生させるよりもこちらの方が実は大変だと思います。今回は、鉛白を水で洗う方法を変えてみます。海外サイトで書かれていた方法です。 乳鉢に自製鉛白を入れまして、そこに水を注ぎます。 ちなみに乳鉢の大きさはφ15cmです。 そして、乳棒で摺ります。 塊になっている感じのところを潰してゆきつつ、水で洗うというふうに考えております。ダマになっているところが、手練りの際に時間のかかる原因になっておりますので、これで手練りも若干は短縮されるかもしれないという期待をしております。 1~2時間放置すると、鉛白は下に沈殿します。 白い顔料の場合は、ガラス製の透明な乳鉢の方が視認しやすいのかもしれません。白い磁器製乳鉢だと鉛白の色に近すぎて、少々わかりずらいところがあります。 沈殿したら上澄みの水だけを別容器に移します。 ゆっくりと水を流せば、綺麗に上澄みの水を取り除けます。 そしたら、また水を入れて同じ行為を繰り返します。今回は4回洗いました。回数の目安は今のところわかりません。 参考にした海外サイトの記述では、濾紙とキッチンペーパーで水気を取り除くのですが、私の場合は、平らなさらに注いで自然乾燥を待つことにしました。 埃の落ちてこない場所に置かねばなりません。ちょっと皿に顔料を入れすぎで乾燥が遅そうに見えるので、もう1つ皿を用意して分散し、厚さを小さくしたいところです。この乾燥方法だと、水干絵具みたいに固まって、やはり手練りに手間取ります。あとは、あまり水に浸けたままにするより、素早く水気を切ったいいような疑問がちょっとあるのです。いずれにしても、練ってみるまでわかりませんが。なお、現時点での反省点ですが、乳鉢に顔料と水をたっぷり入れた状態で摺っても、あまり顔料は細かくならないようで、少なめの水で充分摺ってから水を追加するとよいのではないという気がしました。けっきょく塊はけっこう残りましたので。 |
2022,01,24, Monday
National Gallery Technical Bulletin Vol.26にThe Technology of Red Lake Pigment Manufacture: Study of the Dyestuff Substrateという、赤レーキ顔料に関する記事が載っているのですが、ようやく目を通しました。
※現在はPDF化されて無料でダウンロードできるようになっています。 https://www.nationalgallery.org.uk/research/research-resources/technical-bulletin/the-technology-of-red-lake-pigment-manufacture-study-of-the-dyestuff-substrate 個人的に気になった点でだけメモしておきたいと思います。まず、古い時代にはレーキを作る際の染料源として、植物や昆虫そのものではなく、染色済みの繊維を使用するのが通例だったようであり、確かに中世の技法に関する本を読むと、染めた布など使っていることがよく見られるので、そういうものなのでしょう。布に染めていたインクを溶かして文字を書くとか、なんか読んだこともありますが。手順的には、染色された繊維からアルカリで染料を抽出し、続いてミョウバンを添加して顔料を沈殿させるという、現在一般的なレーキ作りと逆のプロセスになります。18世紀に入っても文献のレシピはこのようであったとのこと。 そして染料源の繊維は羊毛や絹が使われていたようですが、アルカリで染料を取り出すと、動物性の繊維はいくらか侵されるので、特に羊毛の場合、強いアルカリで染液を取ると、古画のレーキから硫黄その他が分析結果に出てくる模様。絹の場合は染料が出やすいので検出されるほどにはならないようで。 それにしても、有機色材は様々なものが検出されるでしょうから、媒材の特定というだけでも、レーキ顔料の作り方まで含めて、多くの知識がないと間違った結論を引き出しかねないところもありますから、けっこうな知識と経験とそれらを整合する洞察力が要るであろうと思われるところで、なかなか高度な仕事であるなと思ったのですが、同時にやはり結論を安易に鵜呑みにしてもいけないだろうなという気もするところです。 しかし、ボロ布を使ったレシピもあったそうなので、昔の繊維の染色というのは色が後から取り出しやすかったのであろうか。今だったら、しっかり媒染剤を考えるなどして、色が出ていかないよう最善の工夫をするわけだけれども、昔は今みたいに頻繁に洗濯をしなかったか、あるいは繊維の種類によっては全く洗濯せずに使うパターンとかあって、ただ染液に浸けただけみたいなケースもあったのかもしれないと、これは私のただの感想ですが。 ところで、18世紀後半には虫や茜などの素材から染液を取りつつ、ミョウバン→アルカリ的な技法が使われてくるようになるみたいですが、間もなく合成の有機色材もどんどん出てくるであろう時期にもさしかかっていたわけですね。 |
2021,10,31, Sunday
もう10年も前のことになりますが、食用として販売されている様々の植物を、顔料と混ぜてパネルに塗布してみたことがありました。
■主な植物油の乾燥性をテスト http://www.cad-red.com/blog/jpn/index.php?e=981 植物油は複数の種類の脂肪酸で構成されており、中でも特にリノレン酸が乾燥性がよくそれを多く含む亜麻仁油などが油彩画の展色剤として使われているわけですが、他にはやや乾燥の劣るリノール酸を多く含む油、例えばポピーオイルや紅花油、クルミ油なども油彩画に使用されています。リノール酸を含む植物油は多いのですが、けっこうな割合で含んでいないと、なかなか乾燥してくれません。オレイン酸は乾燥性はないとされ、オレイン酸主体のオリーブオイルはいつまで経ってもヌルヌルのままとなるでしょう。紅花油、ひまわり油などはリノール酸が多い物とオレイン酸が多いものなどがあります。食用としては酸化し難い方が優れているので、オレイン酸が多い方が好まれると言えるでしょう。 でもまぁ、実際どうなんだろうかと、菜種油、キャノーラ油、米油、ハイオレインの紅花油、ハイオレインのひまわり油まで含めて、手当たり次第に顔料と混ぜて塗布してみたのです。むろん、リノレン酸主体の亜麻仁油、紫蘇油、荏胡麻油などは非常に乾燥性がよかったです。それ意外はなかなか乾燥しませんでした。という試験をやってから、10年経ったけですが、なんとなく取り出し、改めて塗装表面と触ってみたら、なんと皆けっこうしっかり乾燥しており、指でかなり擦ってもびくともしないくらいに乾燥しているのです。溶剤試験はまだやっておりませんが、指先で触れた感じは、かなり理想的な乾燥をしております。むろん10年も待たされるのでは実用にはなりませんが、でも最終的には乾燥しているのです。日新キャノーラ油も、味の素のハイオレイック紅花油も、日新の綿実油も、昭和産業のオレインリッチひまわり油も、国産圧搾法なたね油もいずれも、なんのベタつきもなく、カラリと乾燥しているのであります。例外は米油でこれは製品の表示ではオレイン酸6に対しリノール酸5となっておりますが、ほぼ乾燥していますが、長く触ると指紋の跡が付きそうなベタつき感が感じられます。それと不思議なことに、トルコ産のハイリノールひまわり油も非常にわずかですがベタつきのようなすべり止め感があって、ハイオレインを謳っている昭和産業のひまわり油の方がしっかり乾いております。とはいえ、確かにほぼ固まってはいるのです。 製品の表示の、リノール酸含有量があまり宛にできない可能性もあるということが考えられます。植物から得られるものでありますか、パッケージに印刷された通りとならないこともありましょう。あるいはある程度含まれていれば、いずれは乾燥するということかもしれません。ところで、オレイン酸が大半であるオリーブはどうなるかな、と気になってので、この機会に塗布してみましたので、10年後に結果をお伝えしたいと思うところです。 |