2016,08,11, Thursday
お盆休み的なものに突入するし、普段は読む気にならないような分厚い洋書の1冊でも読んでおかなければいけないような気がして、今回は以下に挑戦してみることにしました。
Jean H. Langenheim(著)”Plant Resins: Chemistry, Evolution, Ecology, and Ethnobotany”Timber Pr (2003/4/30) ハードカバー: 586ページでボリューム感がありますが、でも、絵画に使われている樹脂はある程度限られているので、必要な部分をピックアップして読んでいくわけですが、鳥越一穂氏と樹脂に関する動画を撮ろうと計画しているところなので、むしろパパパっと素早く目を通さねばならないのかもしれません。樹脂に使用に関しては、実際にいろいろ試しているので、それなりの経験に基づいて語れますが、それらの樹脂はいずれも遠い国から輸入されてきたものであって、実際どういう木から採れるものかというのをあまり知らないので、そういう点を整理しておきたいという気持ちが以前からあったのですが。 ひとまず、マスチック樹脂の項から読み始めました。我らがマスチックは、Pistacia lentiscusから採取される樹脂だそうですが、この木はウルシ科のカイノキ属。針葉樹の顕花植物で、常緑で雄雌異株(オスとメスで別れる)とあります。地中海全般に分布するようだが、中世に主にマスチック樹脂が採取されたのはキオス島のものだという。和名ではカイノキが最も近そうで、苗も売られているのですが、しかし落葉高木だったり、いろんな種類があって、頭を整理するのは大変そうです。 youtubeにはPistacia lentiscusの盆栽の映像が投稿されています。 木の形はウルシとは似てないけれども、葉の並び方はウルシタイプですね。Pistacia lentiscusの苗、日本で手に入るなら是非とも欲しいところです。 Pistacia lentiscusの動画らしきもの↓ Pistaciaという名前の通り、ピスタチオの実がなる樹木の仲間であるようである。ただし、お酒のつまみとしても食されるピスタチオの実が成るのはPiatacia veraという種類であり、マスチックの木の実の方は、ちょっと違うようである。 Piatacia veraの動画らしきもの↓ 話が逸れるけれども、興味深いのはテレビンノキとして知られるPistacia terebinthus。テレビンと言えば、カラマツ属、モミ属などの大きなマツ科の針葉樹から採取されるもというイメージが強いが、初期にはこのテレビンノキから採られていたものらしい。ふと気になって、チェンニーニがウルトラマリン抽出で試用していた松脂はどんなものかと思ってイタリア語の刊行版をあたってみたが、pinoの樹脂と書かれてあったので、これに関しては松から採られたのだろう。ちなみに、テレビンノキは旧約聖書に登場する。 Pistacia terebinthusの動画らしきもの↓ マスチック生産は、キオス島と言っても島の東南の角、Pistacia lentiscus Var. chiaが生い茂る箇所に限定されるようで、他の場所で採取されたものは、しっかり育った木から得たものでも質は劣るということである。ということは良質のものは供給量が限られるので、価格が高いのも仕方がないかもしれないし、絵画用のマスチック樹脂でも、質の良いもの、悪いものなど差があるのは、この辺にも起因するかもしれない。雄雌異株と書いたが、マスチック採取に使われるのは雄株の方で、雌株の樹脂は劣っている。さて、PLANT RESINSではこの後は実際の採取方法、用途や歴史などについて延々と述べられており、絵画用としては、リンシードオイル、揮発性のテレビン油などと混ぜてゼリー状のいわゆるメギルプを作るというところまで書かれてあり、興味は尽きないところですが、化学的な部分はなんだかんだで読むのが難しい。 |
2015,04,29, Wednesday
以前、羊の角から、膠を作ろうとして失敗したことがありました。
詳細:http://www.cad-red.com/blog/jpn/index.php?e=1080 あれからだいぶ月日が流れましたが、テオフィルスの書にも書いてあるとおり、鹿の角で試してみておかねばと、以前から考えていました。鹿膠というのも売られていることだし。今回の目的はあくまで「角から膠をつくることができるか確認したい」ということだけですので、念入りにデータを記録したりなどはしておりません。なお、本当は冬にやろうと思っていたのですが、ぼやぼやしているうちに四月になってしまいました。というか、数年間ぼやぼやしてたわけですが。 手順は、かつて牛の皮から膠を作ったときと変わりませんので、詳しくはそちらを参照してください。 詳細:http://www.cad-red.com/blog/jpn/index.php?e=928 今回使用したのは、数年前にヤフオクで入手していた鹿角です。 ちなみに、角の断面はこんな感じです。 ↓のような電ノコで1cmくらいの厚さに輪切りにしました。 テオフィルスでは粉々にした牡鹿の角とありますが、粉々というのも大変そうだなと思いまして。粉々ってどうやってやるんでしょうね。ちなみに電ノコで切るとすっごい臭いです。獣が焼ける臭いでしょうか。切っていると粉もたくさん発生しました。輪切りの角で失敗したら、粉を使ってみたいところですので、とりあえずとっておくことにしました(結局輪切りでうまく膠がとれたので使用せずに破棄しました)。 輪切りの角270gと水500gをグリル鍋に入れて加熱します。 温度が上がってくると同時に、なんかすごく膠臭がしてきて、さらに膠色のもやっとしたものが湯の中ににじみ出して、これはいけそうだという手応えがありました。羊の角は、全く無反応でしたからね。最初沸騰させ、その後保温状態でというのを考えていたんですが、目を離したすきにまた沸騰してたりして、お湯の温度管理は今回かなりいい加減になってしまいました。 2時間ほど加熱のを保ち、熱い状態にしてみました。 途中、水が蒸発して少なくなってきたので、100mlほど水を追加、そして、比較的厚く切っていた角を取り出して、さらに加熱を続けました。 で、水がだいぶ少なくなってきたところで角を取り出し、ガーゼで濾しつつプラスチックの容器に移しました。 ちょっとテーブルにこぼしてしまったので、それと顔料を混ぜて紙に塗布してみることに。 乾燥後しっかりと顔料が定着されておりました。 数時間後、プラ容器に入れた膠を確認したところ、一応ゲル化している様子がみられました。 しっかりと測ったわけではありませんが、牛皮よりは採れる量は少ないと感じました。しかし、予想していたよりは膠が採れるものなんだなとも思いました。獣の皮は事前の処理が大変ですが、角であれば、皮の時に比べて下ごしらえが楽であるかと思います。最低限、砕くか、切るかして煮ればよいのですから。 |
2014,12,10, Wednesday
前回はラピスラズリ粉末と、松脂、マスチック樹脂、蜜蝋によるパテをつくったところで終わりました。パテづくりから10日ほど経っておりますが、チェンニーニによるとこのパテはかなり長く放置していても作業に支障はないようです。
いよいよ灰汁による抽出です。 今回も基本的に金沢美術工芸大学の論文(金沢美術工芸大学紀要 50, 120-111, 2006-03-31)に沿っております。 また、既に鳥越一穂先生が、同様に実践してブログに投稿されておりますので、そちらも参照しつつ行ないました。 論文に沿り、灰の代わりに炭酸カリウムを使用します。 1000ccの水に4gの炭酸カリウムを入れました。 温度は40℃強ではじめて、35℃前後になったところで、温め直しつつ、20~30分くらいを目安に捏ねます。 数分で灰汁の温度が下がってくるので、熱い湯を入れた鍋に入れて、湯煎のような状態にして、ときどき温度を上げました。 20分揉みましたが、青い顔料が出てくる気配は全くありません。全く、です。 が、しばらく待って沈殿したら、底の方にわずかですが、青い顔料が溜まっていることに気がつきました。 パテが白くなってしまい、もう既に青い顔料が無くなっているのかと心配になってきました。 5分休憩したあと、別の器に新たな灰汁を入れて、捏ねはじめました。 2回目はどんどん青い顔料が出て、底に溜まってゆくのがわかり、楽しい作業となりました。 左が1回目、右が2回目です。 ↓25本ほど捏ね続け、沈殿したのち上澄みを捨てたところです。 すっごい、鮮やかな青ですね。 私は2回目を終えたところで、力尽きました。 パテがだいぶ白くなっているのですが、3回目いけるのでしょうか? もう一個のパテも後日試そうと思います。 予想なのですが、灰汁の濃度や温度の影響もあるのかもしれませんが、それよりも最初のうち青い顔料がなかなか出てこないというのが普通であって、それは気にせずに2度目以降に期待するべきものなのかもしれません。濃度や温度が高いと、青以外の部分や、パテの成分などの不純物も多く沈殿しそうなので、次回はやや濃度を低く、そして温度も上げすぎない状態で、粘り強く捏ね続けてみようかと思います。
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2014,11,25, Tuesday
前回、ラピスラズリを砕いて粉末化したところで終わりました。
細かく砕いて顔料にしましたが、灰色の不純物が多く含まれており、砕いただけは、写真の通りで、濃い青には見えません。 この中から青い部分を取り出さなければならないのですが、中世の画家であるチェンニーニが書き残した方法で行ないます。一言で説明すると、松脂などの材料でつくったパテに顔料を入れ、熱い灰汁の中で練っていると、青い部分だけ外側に出て、器の中に溜まるという方法です。 従って、今回の工程はパテづくりです。パテの材料は松脂、マスチック、蜜蝋です。 前回より参照している金沢美術工芸大学の論文では、重量比にて下記の通りと書かれています。 ラピスラズリ:4 松脂(バルサム)2 マスチック:1 蜜蝋:1 論文では、松脂をロジンとして進めていますが、当サイトの掲示板にて、かつてmiyabyo氏がロジンではなくバルサムではないかとコメントしており、確かに理にかなっていると思われるので、バルサムで実行してみます。 実は、この件は既に画家の鳥越一穂氏が、ブログで書かれていますので、ほとんど後追いでの検証になります。 鳥越氏と同じ処方になって心苦しいところもありますが、わかりやすく以下の重量で試してみます。 ラピスラズリ:4g 松脂(バルサム)2g マスチック:1g 蜜蝋:1g 松脂(バルサム)ですが、画材店でヴェネツィアテレピンの名で売っているのですが、よく観察するとメーカーによって粘度が異なります。成分表を見ると、どうもガムテレピンを再投入して柔らかくしているようなものもあるようなので、手元にあるのを見比べて、高粘度のものにしました。柔らかすぎるとパテになるまで、ガムテレピン成分を揮発させねばならず、処方が変わる恐れもあるので。 ラピスラズリ粉末は、11g用意してあるので、2回ほどパテづくりをしてみたいと思います。 小さなステンレスボウルに材料を全て入れたところです。 保温プレートの上で熱します。 保温プレートは、ほんとに保温程度の温度しか出ないのですが、軟質樹脂くらいは溶かすくらいの温度になります。 松脂は誤って火が着くと、黒煙を吐きながらすごい勢いで燃えるので、安全面も兼ねて、こちらでやってみたのですが、でも実はマスチックが溶けてくれるかは、ちょっと心配でした。 無事、溶けて混じりあっているようです。 保温プレートから下ろして、冷めるのを待ったのち、プラスチックのナイフで掻き取りつつ、丸めていきます。 このようなパテができました。 重さは6gです。 2g減ってますが、ステンレスボウルに残った分と、若干テレピンが揮発した分かもしれません。 2回ほど実施。 2回目では、うっかり松脂を1g多く投入してしまいましたが、そのせいで、パテが柔らかすぎて、まとめるのがすごく大変でした。バルサムを使う際は、多めに入れてはいけないと思います。また、充分さめて、ちょっと固くて取りづらいかな、という頃合いに取り出してパテにした方が、指にまとわりつかなくていいと思います。 次回は、いよいよこのパテから青い顔料のみを抽出する、という工程になります。
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2014,11,22, Saturday
ラピスラズリという青い半貴石は世間一般でも有名ですが、かつてその石から複雑な手順で青い絵具を作り出していたということを知っている人は少ないと思います。西洋絵画では非常に重要な役割を果たしていましたが、石自体が遠くアフガニスタンからもたらされるもので稀少であり、且つ青い部分だけを取り出すのに手間がかかるので、大変高価な絵具となっていました。ラピスラズリは不純物を多く含んでおり、石を砕いただけでは、薄い空色ぐらいの色にしかならず、そこから青だけを取り出す技術が必要だったのです。今は合成で作られているので必要ない技術ですが、昔の青の価値は計り知れないものがありました。
青い部分だけ取り出した顔料をウルトラマリンと呼びます。今回の実験は、ラピスラズリからウルトラマリンを抽出する、ということになります。その抽出方法のひとつが、中世末期に書かれた、チェンニーニによる絵画技法書に記されているのですが、その方法をベースに抽出をやってみたいと思います。すでに複数の方がネットで公開されているので、この記事の希少価値は小さいと思いますが、私も参戦したいなという思いが以前からありまして。。。 主な参考資料は、「天然ウルトラマリンの抽出1」(平成十七年度共同研究報告) 金沢美術工芸大学紀要 50, 120-111, 2006-03-31です。 チェンニーニの方法によるラピスラズリ抽出について書かれておりますが、概要は上記の論文を読むのが一番だと思います。 以下よりダウンロードできます。 http://ci.nii.ac.jp/naid/110004830201 その他、画家の鳥越氏が実行した際の様子がブログに公開されております。 http://torilogy.exblog.jp/tags/%E5%A4%A9%E7%84%B6%E3%82%A6%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%9E%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%81%AE%E6%8A%BD%E5%87%BA/ で、ラピスラズリです。 もっと良いサンプルもあったのですが、あえて不純物の多そうなものを選びました。うまく青だけ取れるのか、見たいというのが主な目的ですし、慣れないうちに良い石を使うのももったいないので。 まずはラピスラズリをハンマー等で細かくしてゆきます。細かくする度に、青の部分が多いものを選んで、灰色の部分は除いてゆきます。 数ミリ大に細かくなったところで、乳鉢と乳棒に切り替えて進めます。 論文では磁器製の乳鉢では難しいとありましたが、少量を試すだけなので、磁器製乳棒、乳鉢で砕いてゆきます。 乳鉢を使って砕いているとわかりますが、綺麗に均一に砕けてくれるわけではありません。ときどきフルイにかけて、既に細かくなった顔料を選別します。そうしないと、細かく成りすぎて、色が弱くなってしますのです。 フィルターには、シルクスクリーン用の化繊布を使用しました。200メッシュです。 これをキャンバス用の木枠に張って、 上に粉砕した顔料を載せて揺すると、細かいものだけ下に落ちます。 ラピスラズリを挽いてはフィルターに通すという作業を、延々と繰り返すこと数時間。 こちらが、用意できたラピスラズリ粉末。5gです。 すっごい時間がかかりました。 やはり青の濃さに欠けていますが、これがしっかり青になってくれるかどうか、楽しみです。 次回はパテづくりです。 上記の論文では、松脂をロジンと解釈して進めていますが、当サイトの掲示板にて、かつてmiyabyo氏がバルサムではないかとコメントしており、確かにそちらの方が理にかなっていると思われるので、バルサムで実行してみます。 |
2014,11,09, Sunday
下記のような公開研究会が開催されるという情報を頂きました。
膠文化研究会主催第6回公開研究会 http://nikawalabs.main.jp/index/?page_id=36 2014年12月13日(土)東京藝術大学美術学部中央棟第1講義室 Webサイトによると、主なプログラムは以下のようになっています。 ○「膠と密接な皮革製造工程と当センターの取り組みについて」 原田 修 兵庫県立工業技術センター皮革工業技術支援センター 技術課長 ○「膠製造業を取り巻く環境 ― 日本から膠が消える?」 福島 隆 宏栄化成株式会社代表取締役 ○「カンヴァス目止め剤としての膠」 船岡 廣正 日本画材工業株式会社代表取締役社長 西洋絵画材料的に最も気になるのは船岡社長の講演といえますが、他2つも注目しております。 たいへん興味深い内容なので、参加申込しようと思います。 |
2012,11,10, Saturday
先日、絵具メーカーのクサカベさんの工場見学に行って参りました。古吉弘先生始め、画家の方々、画材研究をしている美大生など、精鋭揃いで訪問致しました。ご参加頂いたメンバーですが、ホームページをお持ちの方々のみ、紹介させていただきます。
古吉弘先生 http://www.geocities.jp/paintingsfuruyoshi/ 小林聡一先生 http://soichi-kobayashi.com/ 疋田正章先生 http://www.masaakihikida.com/ 中村圭吾先生 http://www.s-art-web.com/artist/nakamurakeigo/top.html 美大在学で絵具研究をしている高森幸雄君 http://www.yukio-takamori.com 彫刻家花田麗様 http://www.zokei.net/friends_gallery/gallery/18_hanada/index.htm 西川ケイコさんとその一派 http://art-b.net/ もっと広く告知して参加者を募ろうかとも思っていたのですが、絵具作り講習も受講したかった為、mixi等限られたところで集めまして、参加したかったのに行けなかった方は誠に申し訳ございません。後日、別の機会に何か催し事を開催したいと思いますので、よろしくお願い致します。 では、記憶が薄れないうちに自分用のメモも兼ねて、レポート致したいと思います。 基本的に断りのない限りは油絵具の話だと思ってください。 クサカベ様本社及び工場(埼玉県朝霞市)です。 まず案内して頂きましたのは、油とステアリン酸を混ぜるお部屋です。 顔料と油のみでは分離しやすいので、油にステアリン酸を添加します。ステアリン酸は70℃以上で溶解するので、上のような機械で加熱して混ぜます。顔料によって適切なステアリン酸の量が異なり、数種類の混入量のステアリン酸を加えた媒材が用意されていました。 傾向としては、軽い顔料にはステアリン酸を多く、重い顔料にはステアリン酸が少なく、となるようです。似たような役割のものに蜜蝋がありますが、絵具の質感を変えるので、より油と近いステアリン酸を使用するそうです。 こちらは体質顔料。 白い方が炭酸カルシウム、茶色い方はアルミナホワイトです。既に乾性油と錬られてあります。アルミナホワイトは炭カルに比べて透明度が高いので、乾性油(リンシードオイル)の色の影響を受けて、茶色に見えます。 体質顔料としては、炭酸カルシウムの方が主に使われているということです。ムードンや沈降性炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウムなど、我々が普段使っているものは酸に溶ける可能性があるので、体質顔料用の炭酸カルシウムを使用するとのこと。これは体質顔料という名前で売っているそうです。アルミナホワイトは粘りが強いので好まれないようです。 こちらはミキサー これで乾性油と顔料を混ぜ合わせます。下に見えるのが混ぜた状態です。粗練り工程ですので、まだ艶や滑らかさはありません。次のロールミルで丁寧な練りの工程を経ると、艶のある油絵具になります。 みなさんもおそらくご存じかと思われますが、3本ロールミルです。 顔料は寄り集まってダマになっているので、これをときほぐさなければなりません。3本のミルの間は、ほとんど隙間がなく、そこを通り抜けることによって、粗練り時の粉の塊がときほぐれ、綺麗に分散されて、滑らかで艶のある絵具になります。 ロールミルの素材ですが、通常鉄製を使用するのですが、鉄よりも固い顔料も多く、そちらには石製(御影石)やセラミック製のミルを使用、ただし、石製は現在は生産されていないので珍しいそうです。セラミック製は石より滑るようですが、石製が生産されていないので、現在はこちらを使うそうです。 次に品質管理のお部屋に案内して頂きました。 ミルで錬られた絵具、練り、固さ、色合いなどをチェックするところです。錬ったものから引き算はできないので、足し算で調整していきます。色合いを調整する際は同質の原料で調整するそうです(カドミウムイエローならカドミウム系で)。厳密に同じ色は作れないそうです。私は天然の土性顔料などがロットで色が違ったりするだろうという点に注目していたので、その点を質問してみましたが、そもそも天然顔料を使用しているという絵具、たとえば、イエローオーカーなどの土性顔料は、顔料番号等で天然を表わしていたとしても、100%天然ということはまずないそうです。というのも、絵具メーカーさんが原料を入手する時点で、人工の酸化鉄等が含まれているそうです。土系は輸入であり、外人は平気で嘘を付くので、天然という話を容易に鵜呑みにしてはならないそうで。これは思い当たることが沢山あります。なお、炭酸カルシウムや白亜は100%天然だそうです。 アイボリーブラックは牛骨を使用していたが、狂牛病の影響で入手困難になり、現在国産を使用しているけれども、供給等に関して不安なところも多いようです。カドミウムレッドは、かつては産業用に広範囲に使われていたと思うのですが、現在は絵具用ぐらいにしか用途がなくなってきているようで、原料自体はアメリカにある1社しか製造しておらず、そこが止めたら全世界的に廃盤になる可能性も。 なお、錬った絵具は熟成させます。熟成は基本的にただ寝かすだけのようです。よりしっとりした艶が出ます。水彩絵具は水分がとんで固化することもあるので、熟成工程はないとのこと。 こちらはチューブに絵具を詰める機械です。 次に絵具づくり実習です。今回の参加者の方々は、実は絵具の手練りに関しては、長年の経験をお持ちの方が多かったのですが、それでもたいへん勉強になりました。 まず、絵具の原料をいろいろと見せて頂きました。 これはラピスラズリです。私のモノよりも超デカくて色が濃かったです。 確か、11万円で購入されたとおっしゃておりました。 他にもドラゴンズブラッドも見せていただきましたが、これも私がこの前買った塊よりずっと大きくて迫力がありました。 ステアリン酸の混入された油を使って、顔料を練りました。 今回の参加者の多くが、ミノー絵具を愛用されている傾向がありまして、その件に関する質問が多くありました。 クサカベ絵具とミノー絵具の大きな違いですが、まず、ミノーにはスタンドオイルが含まれているそうです。これまで大きな差は体質顔料の量かと思っていましたが、いろいろ絵具の性質などを差別化を計る上で結果的にやはりミノーの方が体質顔料は少なくなるようです。ミノー絵具のシルバーホワイトがたいへん軟らかくねっとりしており、とても使いやすいのですが、何が含まれてこのような質感になるのか、たいへん話題になっているのですが、その点に関してはいろいろとヒントを頂きましたが、やはり企業秘密ということでした。 それと、前々から気になっていたことがあるんですが、昔、私が油を描き始めた頃は、絵具の乾燥が今よりもっとずっと遅かったような記憶があるんですよね。最初に油絵具を使ったときは、その乾燥の遅さに驚いたもので、数日たってもキャンバスの絵具が動きまくるような感じで、本当に乾燥するのだろうかと不安になるくらいだったのです。絵具の使い方がわかってきて、多少厚く塗ってもそこそこの速さで乾燥するようになったのかなとも思っていたんですが、実は、現在市販されている油絵具は昔よりも乾燥が速くなるように作られているそうです。乾燥に1週間かかるとクレームが酷いそうで。乾燥が速くなるのはいいことかもしれませんが、それによって失われるものもありそうな気がしないでもないです。当サイトの掲示板でも、乾燥を速くするにはどうするかという質問は度々ありますが、乾燥が遅いことによる利点を説いたり、乾燥が遅いことによるウェットインウェットの技法が、かえって作品の制作速度を高めることもあるという話をするようにしています。 以上です。間違った記述が御座いましたら訂正致しますのでご連絡ください。また、参加メンバーの方々で、他に追記したい内容が御座いましたら、コメント欄にご記入ください。 最後に、素晴らしい講習を提供していただいたクサカベ様に御礼申し上げます。 ※問題のある記述、写真等ありましたら、削除いたします。 |
2012,08,25, Saturday
前回、スオウとコチニールをアルコールで抽出したところまでを書いたけれども・・・、
■スオウ及びコチニールをアルコール抽出してみる http://www.cad-red.com/blog/jpn/index.php?e=1107 2日ほど過ぎて、スオウの瓶の方も液が随分赤く、というかドス黒くなってきたので、両者ともフィルターを通して残留物を取り除いた。 スオウとコチニールは色素としての役割しかないであろうから、ニスの本体として、シェラックフレークを溶かすことに。 重量比で、シェラック20g+コーパル10gに対し、スオウで色づけしたエタノール40g、コチニールで色づけしたエタノール50gを投入。 よく振って、シェラックとコーパルを溶かす。 シェラックの方は数時間ほどで、コーパルも1日経過すると、だいたい溶解している。今回は試験的に消毒用エタノールを使用しているけど、無水アルコールなら、もっと綺麗に溶けてくれるであろう。コーパルはゴミが付いているので、本当はフィルターを通したいところだけれども、今回は省略。振ったときの泡がとっても赤い。 では、さっそく何か木工品に塗布してみるとして、理想としては木目の綺麗なちょっと高級な板に塗るべきなのだけれども、実習利用時の予算的都合を考慮して、安くて、サイズの小さなものを選択。 ↓これ「木彫印かん小箱ミニ(しな材)」 http://item.rakuten.co.jp/bicosya/30024/ 彫刻刀等で木彫してから彩色したりニスを塗ったりして仕上げる教材で、定価¥380(実売はもっと安い)。 たんぽで塗るか、刷毛で塗るか、微妙なところである。とりあえず、刷毛で塗ってみよう。 刷毛塗りの場合、ニスが飛び散ると被害が甚大なのでご注意ください。大きなダンボール箱の中などで塗るといいかと。 一回目の塗りでこんな色に。 このニスは紙に塗ると、コチニール的なピンク色になるのだけれど、木に塗るとオレンジ色になるんですな。木材の色が影響しているということか。スオウが入っていなければ、もっと赤かったかもしれない。または、シェラックの色も影響しているかもしれない。なお、横山進一著『ストラディヴァリウス』には「・・・赤い色にちなんだ銘を持つストラディバリウスが数本ある。だが、つくられてから二五〇年、三〇〇年経った現在それらを見ても、赤に見えることはない」という件があり、麒麟血の経年変化ではないかと予想されている。スオウは著しく耐光性が悪いので、スオウで塗ったら尚更早くニスの色の変化が体感できるかもしれない。 本来は、しっかり時間をおいてから次の層を塗った方がよかれと思うけれども、実習で採用する場合は、時間的な都合で難しいであろうから、適当な頃合いを計りつつ、2時間弱の内に3層塗ってみた。アルコールの揮発にはそれほど時間はかからないので、塗ろうと思えば、もっと塗れなくもない。とくに最初の内は木材に吸い込まれる分もあってか、わりと早いペースで次を塗布できるかも。 というわけで、3層塗って以下のような状態に。 ちょっと光沢がでてきている。時間に余裕がない場合は、これで終わりでもいいかもしれない。 その後、乾燥期間など全く考慮せずに、アルコール分が揮発したかと思われるタイミングに合わせてどんどんニスを重ね、十数回塗ってみた。 色に深みが出てきたような気がしないでもない。木目が綺麗な素材だったら、けっこう見栄えがしたかも。 |
2012,07,18, Wednesday
繊維を漉いて和紙を作る、というのを今まで未体験だったので、材料を購入するなどして、この度、挑戦してみました。全く目新しいことでもなんでもなくて、単に自分がやってみたというメモ程度の話なので、その点はご了承ください。
実は昨年から、和紙の原料として知られる楮(こうぞ)を植えていて、しかし、台風で倒壊したり、変な形に育ったりとなかなか順調に進んでいないような話を度々書き込んでたりしていけれども、それに加えて楮から紙原料の繊維を作るには、蒸したりなんだり、いろいろ工程があって、ちょっと面倒臭いというか、そもそも楮は植物を眺めてみたいというだけで植えたようなものであり、これで紙を作ろうという野望を持っていたわけではなかったわけで、紙漉きを行なうにあたっては、以下のものを購入しました。 紙原料(こうぞ) 未晒【工芸/紙すき】 http://item.rakuten.co.jp/bicosya/37006/ 学校用教材で知られる(株)アーテックさんの商品。最近は学校用教材もネットショップで1個から注文できたりするので、試しにいろいろ使ってみると、とっても面白いです。 80gで1,280円(税込)。 相場を知らないので、高いか安いかはわからないけれども、実際やってみてわかったけれども、1人で試しにやってみるという分には、むしろ多いかもしれないというぐらいの量なので、これで充分です。 それと同じく(株)アーテックの「手すき枠 A(ハガキ判)」も買っておいた。 http://item.rakuten.co.jp/bicosya/37000/ こちらも620円と、わりと安め設定と言えるでしょう。 ちょっとしたペラの説明書がついてきた他には、使い方の詳しいマニュアルみたいなのはなかったので、商品ページの解説などを主に参照して、わりといい加減な感じで始めてみることにする。もっと下調べしてからやった方がいいとは思うが、半分調べて実行してから、再びよく調べて再挑戦する方が、事の進みが早いし、良い経験になると思っているので、今回も中途半端な状態でスタートしている点はご了承下さい。 1日くらい水に浸けてほぐすといいように書かれていたので、まずはパットに水2リットルくらいと入れ、そこにコウゾ原料を30g入れてみた。 特にこの量に深い意味はないです。 1日浸けてはみたものの、手でほぐしたり、かき混ぜたりしただけでは、なかなか解れない。 というわけで、ミキサーで粉砕。 いじっていて、徐々にわかってきたけれども、濃度は薄目の方が紙を漉きやすいようである気がしてきたので、さらにもっと大きな容器に水をいっぱい入れて、原料の一部を投入。 紙原料に付属の「粉末糊剤」をほんの少量お湯で溶いて入れると、繊維が均等に分散してくれるので、この状態で紙を漉くわけである。糊は紙を作るための固定剤ではなくて、単に分散させる為のものらしく、ほんの少量入れるだけである。 いよいよ手すき枠で、紙を漉いてみる。 で、漉いた紙を板に張って乾燥させたりするのだけれども、適当な板が見あたらない、安いベニヤだとヤニが付きそうだと思ったので、窓ガラスにベタッと貼付けた。 数時間後、乾いたところで、ベリっと剥がす。繊維がしっかりと絡み合っているので、破れるということはあまりない。 というわけで、紙が完成してくれました。 30g使っただけで、葉書大だとかなり枚数ができたということで、個人でやる分には充分な量かと思われるので、試しにやってみたい人にはお勧めの製品かと思います。 |
2012,07,12, Thursday
昨年秋植えしたウォードは先日種を採取した件をブログに投稿したけれども、既に本体や葉は枯れて失われている。
春に植えたものは、現在、丁度よく生い茂っているので、これで染色を試みてみようかと思う。 染料としてウォードを使うのは初めて、というか、これがウォードなのかも確信がない状態であり、これを使って青色に染めてようやく確認できるというところである。タデアイはちょっと傷が付いただけでも、その部分が青くなったりして、インディカンをいっぱい含んでいるような様子が見られるのだが、ウォードはいつも緑色で、まじまじと見つめてもただの緑の葉っぱにしか見えないというのが、多少気になるところである。 なお、いくつかのWebページで、ウォードには毒性があると記述されている。 http://www.ntyk.net/yasai/2065.html 毒性と言っても様々なレベルがあるので、Webの記述だけではどんなものかはよくわからない。アブラナ科であるから、たまに言われるように花が毒であるとか、インディコに対して毒と言っているのかもしれない。Wikipedia(英語)では、抗癌作用のある成分が多く含まれているというポジティブ面が書かれているが、健康に対するマイナス面については何もない。一応、同様の行為を行なう人は注意した方がいいでしょうと注意喚起しつつ、個人的には無視して進むことにする。 さて、ウォードであるが、染色には葉の部分を使うそうだけれども、発酵等の手順が必要な点はタデアイと同じみたいである。しかし、まずは、手短な方法で、本当に青く染まるのかどうか確認してみたいところなので、タデアイで何度か試みた「生葉染め」を、このウォードの葉でやってみたい。 というわけで、ウォードの葉をちぎり取る。 若い葉と、大きく育った葉のどちらが有効かという点も気になったが、とりあえず大きな葉を集めてみた。 葉をミキサーに詰めて、適量の水を入れる。 ミキサーで粉砕、 染液を作ったところ。 葉のカスを取り除くために、ステンレス網で濾している。 予め用意しておいた絹(シルク)の布を染液に浸ける。 なお、生葉染めなので、布は動物性のもの(シルクやウール)を使用し、事前に、少量の洗剤を入れた熱い湯で洗っておいた。 落とし蓋をして、しばらく染液に浸しておく。 布はすっかり緑色になっている。 これを空気に触れさせて、青く変われば成功である。 洗ってみたら、ちょっと青くなってて、これはいけそうな予感がする。 干す。 完成 タデアイのときよりだいぶ薄い青になったけれども、それは予想通りというか、文献等で言われている通りである。 というわけで、ウォードの栽培、染色、種収穫までをなんとか実行できました。 |