琥珀について
マスチック、ダンマル、コーパルなどについてまとめてきましたが、琥珀についても、多少なりとも調べてみたいと思います。

琥珀について書かれている日本語の文献ですが、私が知っている範囲で紹介すると、まずは●スレブロドリスキー(著)『こはく』新読書社(新装普及版2003/01)。新装版は最近の刊行ですが、初出からはそれなりの年数が経過しているので、若干内容が古くなっている可能性があります。次に●アンドリュー・ロス(著)『琥珀 永遠のタイムカプセル』文一総合出版 (2004/09)、こちらは美しい図版で構成されていますが、琥珀の中に含まれる昆虫など内包物の解説(宝石の鑑別に訳に立つ知識なのかもしれない)に重点が置かれており、琥珀自体についてはそれほど多くのページは割かれていません。しかし、化学なことを門外漢でもわかるように易しい言葉で説明しています。雑誌「現代化学」にときたま琥珀の記事が載っているようです。私が目を通したのは、●「現代化学 2013年 06月号」東京化学同人掲載の「超スローな化学反応でつくられる琥珀」中條利一郎(著)という記事。最も最近の本では、●飯田孝一(著)『琥珀』亥辰舎(2015/10/30)、力作であり情報も新しいので、何か買うなら今なら本書一択のような気がします。外国の文献では、例によって●Jean H. Langenheim,"Plant Resins: Chemistry, Evolution, Ecology, and Ethnobotany"のAmberの項から読み始めました。琥珀に限らず樹脂全般についての本ですが、それでもなお、情報量では他を圧倒しています。

化石化できる樹脂を出す樹木としては、マメ科のHymenaea(ヒメナエア)が挙げられます。こちらは、コーパルの元となる樹脂を生むので、コーパル樹脂を解説する際に言及したかと思います。他にはナンヨウスギ科などが挙げられますが、こちらはカウリコーパルの件でやはり言及したアガチス属を含む科です。いずれも今の世でも化石化が可能な樹液を出している樹になります。今我々が手にする琥珀は、樹脂として出てきたのは数千万年も昔だったでしょうから、現在のそれらの樹の祖先の植物が出したという方が正しいでしょう。古い物では2~3億年前だったりするので、現在とは樹木の様子も相当異なり、そもそも地形、気候など地球上の様相が大きく異なっていたんでしょう。Plant Resinsぐらいの本になると、既に絶滅した琥珀生産源の樹木についても延々と述べられています。琥珀は古い物では1億年、2億年前に遡るものもありますので、地上の様子も大きく異なっていたと思いわれます。

原生樹木に限れば、琥珀を産む(産んだ)代表格は以下の2つです。
・ナンヨウスギ科(学名:Araucariaceae、アラウカリア)のナギモドキ属(学名:Agathis、アガチス属とも)
・マメ科(まめか、Fabaceae syn. Leguminosae)のヒメナエア属(Hymenaea)

必ずしもこれらに限ったわけではありません。長らく化石樹木と思われていたメタセコイアも琥珀となる樹脂を出していたそうです。メタセコイアは1945年に中国奥地で現存しているのが発見され、日本でもあちこちに植樹されています。私も自宅の庭に苗を植えた話は以前ブログに書きました。やや古めの文献には、琥珀の元となる樹脂は、針葉樹、特にマツの樹脂と書かれていることが多いかと思います。私が持っている電子辞書に収録されているブリタニカ国際百科事典にも「マツ類の樹液」と書かれています。マツの樹脂、松脂は琥珀を形成する為の高分子化ができないようで、松脂は琥珀原料の候補としては除外されます(高分子化にもいろいろあって、化石化に必要な高分子化が行なわれないということらしいですが)。最近の文献ではいずれもはっきりと松脂は否定されています。ただし、ナンヨウスギ科の上はマツ目なので、マツ類の樹脂というのが全く的外れとは言えませんが、松脂という誤解を受けることを考えると避けた方がいい表現でしょう。あるいは、ブリタニカ国際百科事典はもしかしたら、coniferという単語をマツ類と訳しただけかもしれません。琥珀を産む樹木として、よく見かける表現は「針葉樹の樹脂」ですが、先ほど触れたマメ科のヒメナエア属は針葉樹ではないので、針葉樹に限定するのも正しくないと言えるでしょう。

どのような高分子化が起こるのかについては、先に挙げた文献の中では「超スローな化学反応でつくられる琥珀」が最も詳しいのですが、私が読んでもよくわからないという問題はあるものの、やはり元の樹種の違いによって、何か差が出てくるのではないという予感はしたので、琥珀画用液の検討の際には、産地に関する件はどうしてもないがしろにできないところでしょう。さて、樹脂の中に高分子化に必要な条件が揃っていても、それだけでは琥珀にはならないようです。樹木から出てきてしばらく空気に触れていると劣化するようで、樹脂が出て、それが何らかの理由で速やかに地中に埋まった方が良いようです。高分子化は化学反応ですから、地熱などが加わると反応が加速するようです。加速と言っても数万年単位ですが。例としては、樹脂が出て樹木と一緒に川に流されて、空気に触れずに地中に埋まってしまうとか。樹木の組織の中に包まれたまま琥珀になるケースもあるようです。樹脂なら全て化石化するわけではなく、そして化石化する樹脂も、条件が揃ってようやく化石化するのであって、レアケースなのでしょうけれども、数百の琥珀鉱床が見つかっているようですが、そのうち採掘するほどの大きな鉱床は20地域ぐらいとのこと。代表的な琥珀産地の地図が飯田孝一(著)『琥珀』に掲載されております。各地の形成年代と琥珀の特徴も書かれています。

樹脂はどれくらいの年月で琥珀になるのか。画用という面で考えたとき、気になるのは、どの時点でコーパルなのか、どの時点で琥珀になるのか、という点です。地質の条件が深く関わるので、経過年数が樹脂の化石化に直結するわけではないけれども、多くの書物では、琥珀になるには数百万年、数千万年の時間が要ると書かれています。ただし、Plant Resinsでは、その数値に根拠はないと言います。Plant Resinsによれば、0~250年を経過しただけのものは、まだ現生樹脂か最近の樹脂(modern resin or recent resin)という括りであり、250~5000年は古樹脂(ancient resin)、5,000~40,000年の間のものを半化石樹脂と分類し、そして40,000年以上経って化石樹脂になるとする。4万年というのは琥珀の世界では非常に新しい樹脂のようにも思えるが、4万年前はマンモスが居た頃で有り、化石になるには充分な年月とも言えるのか。数字が千年単位とかで、4千万年前の間違いかと最初は思ったのですが、放射性炭素年代測定による年代の分析に依っているので、放射性炭素年代測定でさかのぼれる限界が4~5万年だとすると、やはり4万年なのでしょう。琥珀に関してはともかくとして、コーパルを入手したとき、それが本当に5000年以上の時を経た半化石樹脂なのか、それとも最近樹木から採った原生樹脂なのか、それを調べる手段としては、放射性炭素年代測定で判別できそうな、という気はします。例えば、海外のショップでコンゴコーパルの名がついた樹脂が売られていたりしますが、実際はたぶん買う方も売ってる方もそれが半化石樹脂なのかはわからないと思いますが、どうしても気になる場合は、そのような方法ではっきりさせることができそうです。どこに頼めばいいのか、いくらかかるのかはわかりませんが(かかった費用に見合うリターンがあるのかも微妙ですが)。

というわけで、以上のような知識上の基礎を踏まえた上で、琥珀を熱してみたり、前日入手したランニングアンバーをテレピンに溶かしてみたりなどしつつ、鳥越さんと動画を収録しました。うまく編集が進めば年内中には公開されるのではないかと思います。

| 絵画材料 | 11:36 PM | comments (0) | trackback (0) |










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