2011,05,01, Sunday
伝統的というか手工業的な製法の膠を「和膠」、工業的な製法のものを「洋膠」というらしいけれども、和膠作りは部落産業だったようで、下記のような論文が閲覧できます。
http://blhrri.org/info/book_guide/kiyou/ronbun/kiyou_0154-04.pdf 東北生まれの私には「部落」という言葉は、「集落」ぐらいの意味しかなかったため、その辺の事情に関して理解は難しいのですが、手工業的な膠作りの具体的な方法が記述されている例が、日本語ではわりと少ないような気がするのは、そのような面もあるんでしょうか。 日本画の材料に関する本では、職人がこんな感じで作っていますという記述はたたみかけるけど、自分でふつうに膠ができますよ的なものは少ないかと。 英語で検索すると、わりと簡単にさらっと、作り方の記述が多数見つかったりするんですけどね。 どっかのおっさんが膠を作ってみた的な動画も見付けたりしました。 http://www.youtube.com/watch?v=vjBT7WOAuLE 先史時代から膠は壁画などに使われていたでしょうけど、何かの動物の骨とか皮とかあれば、膠を準備できたであろうなぁ、と考えると、まぁ、もっと簡単に考えていいような気がしないでもない。 で、私は最初テオフィルスの技能書で膠作りの記述を発見し、これならわりと簡単にできそうだと思ったわけです。 --引用開始-- 生皮および牡鹿の角の膠について これが注意深く乾かされたならば、同じ生皮の同様に乾かされた切片をとり、こまかく刻め。そして鍛工の鎚で鉄床の上でこなごなに砕かれた牡鹿の角をとり、新しい壺の中にその半ばになるまで(刻んだ生皮と)配合し、それを水で満たせ。こうして、しかし少なくとも沸騰しないようにしながら、その水の三分の一が煮つめられるまで、火にかけよ。そして汝は次のように試せ。即ち汝の指をこの水で濡らし、指が冷えた時、もし粘着するならば、膠はよい。しかしもしそうでなければ、〔指が〕互いに粘着するまで煮よ。その上でこの膠をきれいな容器に注ぎ、そして再び壺に水を満たして前のように煮よ。このように汝は四度まで続けよ。『さまざまの技能について』中央公論美術出版より --引用終わり-- この例では牡鹿の角を使っており、替わりに羊角なんぞを入手してみたりとかしてたんだけど、それについては後日機会があったら述べるとして、まぁ、膠って言えば、真っ先に思いつくのは家畜の皮じゃないすかね。 皮というのは、放っておくとガチガチに固くなってしまうので、タンニンやその他の薬品で「鞣し」という加工を行ない、それによって、いつまでも柔軟性のある「革(レザー)」というものになるわけで、その革は各種革製品になっていたり、クラフト店で素材用の革として売られているので、どこでも買えるけど、膠作りに使うのは革じゃなくて、生皮、いわゆるローハイドでしょうなぁ。まぁ、鞣してあっても使えるかもしれないけど、着色されたりいろいろ加工されているでしょうから。 ちなみに、チェンニーニには、羊皮紙の切片なんかを使ってた方法が載ってような記憶があるけど、現代のアトリエで羊皮紙の切片が発生するような状況はほとんどないと思われるので、却下ですかね。 で、革じゃなくて、生皮というのは、いざ買おうと思うと、意外と売ってないもんでして、太鼓用の皮とか買おうかと思ったけど、けっこうな値段がするので、私のテキトー実験にはもったいない。とか思っていたら、近所のホームセンターのペット用品コーナーで、犬用おやつの牛皮(ローハイド)が売っていたのを発見。さらに、牛の蹄とか、その他家畜の耳やらアキレス腱やら、膠の素材にできそうなものがいろいろ売っておりました。 とりあえず、牛皮を骨の形に縛ったものと、牛の蹄を買ってきた。 で、しばし水に浸けて柔軟にさせる。 この時点で、牛の蹄は、ハサミで切るなどして、細かくしておけばよかった。 膠は、沸騰させてもいけないし、0度以下にしてもいけない、ということで、微妙な温度の熱水で抽出するのだけど、グリル鍋の「保温」モードで温め続けてみることに。ツインバード製のかなり使い古したグリル鍋であるが、「保温」にしておくと、中の水の温度はおおよそ80度前後を維持していた。ちょうど良い。 それにしても、臭い。ものすごく、臭い。 いろいろ臭い材料で実験を繰り返してきたけれども、これほど臭いものは初めてである。 というわけで、鍋を室外に出して、それを窓から眺める。 数時間経って、牛皮はすっかりとろけてしまった。 これ、ゼラチンで作ったまがい物皮ということはないですよね。 なお、後々確認したら、水じゃなくて、石灰水って書いてある文献が多かった。 水がだいぶ減ってきたところで、ガーゼで濾しつつ、 タッパに入れる。 この状態で乾燥を待てば、板膠みたいになるんじゃなかろうかと。 なお、濃い膠液であるが、水分の量が多いので、乾燥時にはこの状態よりかなり薄い板になるであろう。 ↓その後、2日経って、だいぶ乾燥が進んだけど、まだ、やわらかい。 というわけで、すっかり乾燥したら、また画像を挙げてみたい。 もちろん、現段階では膠として機能するかどうかも、まだ未検証です。 膠作りに詳しい方がいらっしゃいましたら、些細な情報でもいいので、コメント欄にご投稿ください。 ■2011/05/14追記 その後、2週間ほど経ちましたが、無事乾燥した模様で、ばっちり固くなっております。 予想していたより肉厚の板になったので、少々使い勝手が悪いかも。次回はもうちょっと薄い板になるようにしたいところ。それと、ご投稿頂いたコメントのように、網やザルに移して上下満遍なく乾燥を進ませれば、もっと平らな板になったのかと。以上が反省点。 色は三千本より濃いめのようだけれども、石灰等での処理をしてないからか。三千本以外の膠ではこのような色はわりとよく見られるので、本来このような色なのかもしれない。原材料の皮はどちらかというと白に近いものだったのが、膠にしたときに、このような色になるというのは興味深い。さて、実際にこの膠を使用してこそ、全行工程が無事済んだことになると思うのだけど、これをすぐに湯で溶かして使うというのもどうかと思うので、一年以上、そのまま在庫した上で、その後、実際に使ってみようかと思うところです。 |
コメント
凄いことなさいますね。型に入れて2日も置いててよく腐りませんでしたね。
以前、トタン膠の語源を探していた時に、膠の製造法の記述を見たのですが、とりあえず、防腐剤は入れておいた方が良いと思います。 ちなみに、トタン膠では「沸騰させたミョウバン水100gに硫酸亜鉛を25gを溶解させて、防腐剤にする」と書いていました。 -------------(以上、とある技術者)---------------- 型に入れて寒いところに置くとまもなくプリンになるでしょう。その段階で取り出すのです。それを金網とかザルの上に放置して乾かすのです。つまり「寒ざらし」です。温度が高いと溶けてしまう為、冬場に製造されて来ました。 -------------(以上、さる技術者)----------------
| 「さる技術者」+「とある技術者」 | EMAIL | URL | 2011/05/06 04:04 PM | t90lAIa6 |
とある技術者様、さる技術者様、コメントありがとうございます。
本文では書き漏らしていましたが、タッパに移す前に、ホルベインの防腐剤を数滴垂らしておりました。おまじない程度の量でしたが、今のところは効いているようです。「沸騰させたミョウバン水100gに硫酸亜鉛を25gを溶解させて、防腐剤にする」も試してみたいと思います。 乾燥させる際、タッパに入れたままでしたので、片方だけ先に乾いて、曲がった膠になってしまいましたが、ゼリーになった段階で網などに移すとよっかんですね。 現状は、表面は乾燥しているのですが、乾燥した膠の膜ができており、内部の乾燥を遅らせているようです。気温の高くなる日中は、内部が液状化します。やはりもうちょっと寒い時期にやる方がよろしいのでしょう。羊の角の膠も作ろうと思って、あとは煮るだけの状態まで下準備していたのですが、冬になってから決行したいと思います。 他にも何かありましたら、よろしくお願い致します。 余談ですが、先日、ふぐ料理(養殖)を食べたのですが、ふぐの皮はほとんどゼラチン質で、熱湯に入れると十数秒で溶けてしまうんですね。
| 管理人 | EMAIL | URL | 2011/05/07 12:53 PM | 6s1eAgnk |
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| Barney Whatley | EMAIL | URL | 2018/08/05 01:23 PM | omLjKkQE |
ブラボーです。
クラシックギターのナットを牛骨で作ったので、どうせなら純粋牛骨膠で接着したいと思い「自分で作れんじゃね?(業販スーパーの)ハナマサで牛骨を買ってきて・・・(またその時点では)後日の再交換時剥離が前提の膠なのだから別に防腐処理とかせずに腐っちゃってもいいかも、マズければ融解してやり直せばいいんだし」などと出鱈目に勝手なストラディバリ気分で「やってる人いるかな」と検索したところ、なるほどペットショップにいろいろありますね! うちのワンコはロイヤルカナン専門で、暫くコジマにご無沙汰しており思いつきませんでした。 さる&とある技術者様の防腐処理のお話も非常に勉強になりました。 ストラディバリもそりゃ防腐はしていたでしょうね。 子供時代から糊に興味があり、また後の仕事柄から手製本のためにベルギーの澱粉糊remyを持っています。 フランス国立図書館で修復に使っているようですが、かつて同国では死刑囚の判決文等の資料書籍はその本人の皮で装丁したそうですね。 この場合、革装と書くより皮装と書く方が誤字に思われそうでもこちらが正しい気がしますね。 デミグラスソースのデミは「半量に煮詰める」ことを指しているようですが、全く小麦粉を入れない、つまりノン・ルーで煮こごりを作る料理人も結構いるらしく、その場合1/10まで煮詰めないといけないようですね。 糊への興味が再び沸騰しそうです。 ふぐのお話がありましたが、魚膠が一番身近で簡単でしょうかね。 いや、豚骨とか背脂の方が余った分で”家二郎(ラーメン二郎もどきを自家製すること)”なんかできますし。 なんたってギターのナットの接着面積なんてほんの僅かです。 最新の動画も楽しく拝見しました。 そちらにもコメントさせていただきたいと思います。
| マルキ | EMAIL | URL | 2018/09/10 05:45 AM | csOzaaIk |
こんにちは。
コメントありがとうございます。 膠の材料は他にも何か身近なところで手に入りそうだと思うので、注意してみていることしています。 日本の気候というのも考えるとやはり防腐剤は必要なのでしょうね。
| 管理人 | EMAIL | URL | 2018/09/19 09:53 PM | 0riDXOoc |
こんにちは
ヴァイオリン工房に伺ったところ、日本では絵画用の国産牛粒膠を用い、防腐剤は入れないそうです。 乾燥工程を踏めば良いものなのでしょうか?その辺はわかりません。 使用する度に膠液を作り、新鮮なもので作業を行うそうです。 日本画・書道では三千本膠、(日本での)弦楽器製作・修理には粒膠、ということのようです。 オルガン製作には魚膠という話を読みましたが、気候の他に接着力などの要素があるのかもしれません。 西洋画では兎膠を使うようで、楽器も兎膠のようです(これは根拠弱いです)が、ストラディバリウスなど300年もの間修復や調整のために表板を剥がして再接着するような作業が繰り返されているオールド楽器の場合、当時は考えられなかったグローバルな今の時代には、膠の種類という点でも修復地は重要なことになるのかもしれませんね。 私の話ですが、急いで仕上げる必要ができ、ヴァイオリン工房に倣って絵画用の粒膠を今回は使用しました。 水に対して5%の粒膠を入れ、常温で半日放置して少量の粒がゲル状に残っている程度でほぼ溶けました、その後湯煎し完全に溶かしましたが、実に楽でした。 実用的には粒膠がいいですね。 また、ローズウッドの削り粉と膠を混ぜて練り、”コクソ”を作りました。 ギターのペグを留める木ねじの穴が甘くなっており、この天然コクソで埋めました。 膠から脱線しますが、昔の大工さんはお昼ご飯の米粒と木くずを練って”コクソ”を作り、木材の打痕や傷を埋めたそうですね。 子供の頃は、よくご飯粒で習い事の月謝袋とか学校の教材費だとかの封筒の糊付けをしましたが、防腐ということは全く考えていませんでしたね。 「腐る」メカニズムにも面白味がありそうです。 今回お恥ずかしく妥協してしまいましたが、原料からの膠作りは何か本能的な、琴線に触れるものがあり、いずれ行いたいと思います。 冗長なコメントとなり、すみません。
| マルキ | EMAIL | URL | 2018/10/14 04:00 AM | csOzaaIk |
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