2010,03,15, Monday
ガラスとはいったい何であるか、改めて聞かれると、なんなのかよくわからないものであるが、根源的なことについては下記の書籍の冒頭が簡潔にまとまっている。
『トコトンやさしいガラスの本』日刊工業新聞社 (2004/07) Amazonで最初の数ページを閲覧できるのだけれど、初期のガラスの製法についてわかりやすく書き出されており、とりあえずはそこの部分だけ押さえて話を進めたい。 実のところ自分もまだまだよくわからない。無理を承知で説明すると、物質というのは固体になると分子が規則的に並ぶ結晶構造になるもので、例えば水は氷になると規則的な結晶になる。氷も立派な鉱物であり、たまたま融点が0℃ということで、ちょっと他と違った物質に感じるけど、鉄や石などと違いはない。ガラス状物質というのは、それらと違って液体のような並びの不規則な状態のまま固体になっている状態で、天然には黒曜石がそのような状態である。酸化ケイ素(シリカとか石英とか)がそのような状態を作りやすいようで、これは砂とかに大量に含まれている。しかし、シリカを溶かすには1600℃以上の温度が必要で、古代にはこのような高熱を作りだすことができない。ところが、アルカリを加えると融点が下がって、800℃ぐらいでも溶かせるようになる。地中海ではソーダ(水酸化ナトリウム)が豊富に得られたようで、砂とソーダを熱して、初期のガラスが作られたというのは、先で紹介した本にも書かれている。中世ヨーロッパではイスラム勢力の進出で地中海のソーダが手に入りにくくなり、木灰が使用される。説明が不備があるかもしれないけど、歴史的なことについては黒川高明(著)『ガラスの技術史』が読みやすい。 これらに関してよく理解するには、実際に砂やソーダ等のローマテリアルから、自分でガラスを作ってみるのが一番ではなかろうか、ということで、自分でガラスを作ってみることにした。事前によく調べれば作り方の情報はいくらでも集められそうではあるが、失敗もまた貴重な経験ということで、そこそこの知識でスタートすることにする。これは陶工パリシーの探求方法と言えよう。陶芸の釉薬とガラスは共通部分が多いので、全く見当違いということもない。結果的としては、パリシーのような悲惨な話になったが、パリシーも最終的には素晴らしい作例を残しているし、いつかはうまくいくこともあるんじゃないでしょうか。なお、絵画材料と関係ないと思われるかもしれないが、人工顔料とガラスの発色、あるいは釉薬の発色は意外に関係性が深いと思うのである。ガラスを砕いた顔料というのは昔からあるし、古代においては人工顔料の発生にガラス制作が大いに係わっていたのではないかと考えている。 まずは原料としてNatural Pigmentsよりシリカを購入。 これに灰を加えるのである。 灰は、染色用に買った藍熊染料の木灰(樫)がある。 中世ヨーロッパのガラス製法では石灰も主要な原料だったというような話を読んだことがある。 石灰と言っても、石灰岩なのか生石灰なのか消石灰なのかわからなかったが、妥当なところで消石灰を使う。 この壺は百円均一で買った磁器であるが、絵付け用絵具で、原料名を書いておく(他の筆記具では消えてしまうと思うので)。 シリカのみ、シリカ+木灰、シリカ+木灰+石灰 この三種類を入れた壺を陶芸用の石油釜にて、800℃で焼成。 翌日、冷めてから取り出してみた。 残念ながら、なんの変化もなし。ガラス化失敗である。 ふと思ったのだが、釉薬みたいに水で溶かしてみた方がいいのでは? ということで、今度はシリカと木灰を水で混ぜてみた。 今度は1200℃で焼成。 結果であるが、なんとも中途半端である。 軽く固まってる感じではあるが、ガラスとは言えない。 そもそも、水で溶いた結果なのか、温度を1200℃に上げたからなのか、要因がわからないが、これは自分の失敗である。 次に、陶芸粘土の如く、酸化鉄が存在した方がいいのかと思って、酸化鉄顔料(バーントシェンナ)を混ぜ、しかも、炭で焼成することにした。 壺に入れて、炭の中に。 翌日取り出してみたんだが、なんの力も加えてないのに見事に壺が割れてしまった。 寝る前に火の始末として水をかけたせいであろう。急に冷やしたために割れたと思われる。水かける前に取り出しておくべきだった。 しかし、どのみちフイゴで吹き続けるなどの行為なしでは、必要な温度に達しないだろうから、あまり意味がなかったといえる。 気を取り直してもうちょっだけ実験を続ける。 木灰ではなく、ソーダでやってみようかと。中世ヨーロッパでも、ソーダが手に入らなくなったから、木灰に移行したのだろうし、ソーダがあるなら、ソーダの方がいい。 で、シリカとソーダを入れた壺を800℃で焼成。 おや? ちょっと溶けてて、ガラスっぽくなってきたような。 しかし、表面をなんか触ると微妙に濡れてるような。ちょっと怪しいが徐々に結果が出てきているのか? そして、いろいろ考えてみたが、どうもシリカと木灰とかソーダとか、素材が純粋過ぎるのかも。 古代人が行なったような砂にソーダを混ぜて熱するといったようなケースでは、石英以外にも多くの物質が含まれており、それらがそれなりに役割を果たしていたのではないか。 というわけで、硅砂を購入。水槽用に売っていたものである。 浜辺の砂とか自分で取ってきて使うと、原初により近い形になって面白いのだが、今回その余裕はなかった。 硅砂とソーダを混ぜて焼成してみた。 キラキラして綺麗である。少しガラスに近づいた感じがしないでもない。 写真ではわらりずらいけど、横にしてる状態なんだが、溶け合わさっていて落ちてこない。 拡大図。 期待できそうである。 |
2010,03,12, Friday
ずいぶん前に、シルバーホワイトに各種乾性油等の媒材を混ぜて塗布し、どれくらい黄変するか見てみようという記事を投稿したのだけど・・・
■油彩用メディウム黄変試験 http://www.cad-red.com/blog/jpn/index.php?e=437 あれから2年弱が経過したので、現状を観察しつつ、若干のコメントを残しておこうかと。 試験方法としては、けっこういい加減に混ぜたり塗布したりしているので、正確性に欠いていますが、まぁ、それも含めて、実際の使用に近いのではないか、とか言い訳しつつ。 写真は、実物の色とは多少違うとは思いますが、だいたいこんな感じです。 リンシードオイルはしっかり黄変してますなぁ。それに比べるとポピー、サフラワー、サンフラワー、ウォルナット(以降これら4つまとめてポピー系と表記)は共に黄変はずっと少ない。ただし、少ないだけであって、若干は黄変している。ポピー等は黄変しないと思っている人がけっこう居ますが、リンシードよりずっと少ないにしろ、ある程度は黄変する(これは俵屋工房でも言ってました)。気になるのはポピー系は触ると柔らかいんですよね。乾性油を多目に混ぜているという点と、塗布後すぐに額装したということで、乾燥の条件が悪いのは確かなのだけれど、リンシードのサンプルがしっかり固まっているのに大して、ポピー系は触るとあきらかに柔らかい。今まで同じ条件で塗布して触り比べるということがなかったので気付かなかったが、こうして比べるとけっこう差がある。ポピーで描いた上に、リンシードで重ね描きするのは、柔らかい層に固い層が載るわけで、あまり好ましくないかも。 リンシードオイルは様々な種類を試し、それぞれ若干の黄変度違いがみられるけど、試験方法が適当なのでだいたい誤差範囲でみんな似たように黄変していると言っていい。ビンに入っているときの見た目の色とはほとんど関係ないような気が。。。どのみち黄変するから無理にブリーチせずに黄色いオイルで描いた方がいい、とデルナーも言っていたそうですが。ただし、誤差というのを差し引いた上でも多少の傾向を読み取ると、スタンドオイルはやはり黄変が少なく、ボイルドオイルは黄変が多いような気がする。これも技法書通りの結果である。市販のサンシックンドオイルもそんなに黄変しなかった。市販の生リンシードオイルより黄変していない気がする。自製サンシックンドは生リンシードと同じくらいに黄変していたが、しかし使用したのがまだ自製に手慣れていなかった頃のサンプルなので、暇があったらリベンジしたいところである。ないけど。 ダンマルワニス、マスチックワニスを混ぜて塗布したものは、ポピー系よりさらに黄変していない。それに実に素早くカラリと乾燥した。ただし、まだ2年というスパンなので、年数が経つと黄色くなる可能性がありそうだと予想中。また、乾性油と比べたら、溶剤に溶けやすく、経年で脆くなるということなので、ダンマルワニスだけで描くというわけにはいかない。コーパルワニスは黄変してるけど、予想したほどでもない。ヴェネツィアテレピンが意外と黄変している。リクィン(アルキド樹脂)は全サンプル中、最も黄変が少ない。というかアクリルジェッソの地塗りとほとんど変わらん。 リンシード、ダンマル、テレピン等を適度に混ぜた、いわゆるペインティングオイル的メディウムを混ぜて塗布したものは、黄変も少なく、乾燥性も良くて、なかなかよろしい。まぁ、テレピンが適度に入ったために、乾性油の量がそれほどでもないというだけの話かもしれないけど、そういうのもひっくるめて、描画用メディウムとしてバランスがいいと言えるのでしょう。リンシード、ウォルナット、ブラックオイルなどのパターンで試しているが、確かにウォルナット使用のものはリンシード使用のものより黄変が少ないけれども、それほど顕著な差があるわけではない。 以上、サンプルを見ながら思いついたことを適当に書きなぐったので、不備あろうかという思われますが、そもそもまだ途中経過の段階で、これは何の結論でもなく、メモ程度だと思ってください。あと、サンプルは、真っ白い地塗りの上に塗られてあるから黄変が目立っているが、キャンバス上の色というのは、周りの色との相対的な関係で印象が変わるので、さまざまの色の中にあれば、黄変は目立たなくなる。特にバロック風の絵の中にあっては、一番黄変しているサンプルでも、きっとまぶしい真っ白に見えることでしょうから、画像を見て不用意に黄変を嫌わないように願います。 |
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