2021,08,16, Monday
松田壽男(著)『古代の朱』を読みました。『丹生の研究 歴史地理学から見た日本の水銀』の方が有名ですが、こちらは中古価格が高騰しており入手はあきらめて、一般読者向けに書き下したという『古代の朱』の方を読みましたが、これでも充分なボリュームでした。バーミリオン、硫化水銀、あるいは水銀というものにへの関心が非常に高まる一冊であったといえましょう。私は赤い色が好きでして、バーミリオンやカドミウムレッドはよく使います。絵画用途ではバーミリオンは変色しやすいので、現代ではカドミウムレッドに置き換えるよう言われておりますが、しかし、これを読んだらバーミリオンを使わずにはおれないところです。と言ってもふつうは硫黄と水銀を掛け合わせた合成バーミリオンしかふつうは油絵具にはありませんが、それも西洋では中世以来の伝統があるといえるでしょう。しかしやはり天然辰砂も使いたくなるというものです。日本画の岩絵具ではありますけれども、油絵具にしたらどうなのでしょうか。
さて、『古代の朱』は一般向けに書かれたとは言っても、だいぶ年季が入っておりますので、少々読みにくいところはあるかと思います。私は他にも日本の朱やその他の金属関連の本も買ってはみたのですが、 蒲池明弘(著)『邪馬台国は「朱の王国」』が面白かったです。松田壽男に非常に影響された内容であり、そこから邪馬台国の話になるという、学術的な本というよりは一般向けの読み物であるのでしょうけれども、この人は文章がとてもうまいです。ちょっと前掲の本で意味不明だった部分もすんなり理解できたりします。ちなみにこれらを読んで、それからいろいろ調べていたのですが、youtubeに無断アップロードされていると思われる「所さんの目がテン」という番組の水銀の回が非常によくできていたので、消されてしまう前に一度見ておくといいんじゃないかと思います。 それから、文化財保存修復学会第43回大会 研究発表集が届きました。USBメモリ版をリクエストしましたので、このままどこかにしまったりしたら、そのまま無くてしてしまう恐れもありますので、気になるものをその日のうちに読むことにしました。やはり顔料と関わりのあるものをピックアップして読んでしまうわけですが、「嘉永年間の役者絵に用いられた石黄の分析」、「鉛金属の腐食と空気環境との関係についての調査事例」、「東海市指定文化財「釈迦十六善神図」「阿弥陀如来象」の修復及び調査報告」、「西洋中世の処方に基づいた青色人工顔料の歴史的考察」がいずれも顔料に係わるテーマで勉強になりました。特に「西洋中世の処方に基づいた青色人工顔料の歴史的考察」は今後が楽しみです。 レーキ顔料づくりの方はコチニールに移行したいところですが、National Gallery Technical Bulletin Volume26にThe Technology of Red Lake Pigment Manufacture: Study of the Dyestuff Substrateという記事があったのだけれども、これはなかなな優秀そうな情報源であります。でも、今読むと理解が半端になりそうなので、まずは現在の知識でコチニールをレーキ化しつつ一通り材料を集め、その後に目を通した方がよさそうであります。しかし、この号は2005年に購入して放置しておりましたが、改めて開いてみたら、面白そうな記事ばかりであります。買ってほっとしてしまうというのが一番よくない気がしますが、やっぱり何かの切っ掛けがないと素通りしてしまうということもありますので、こういうことも何かの縁なのでありましょう。なお、現在はwebで公開されております。 |
↑上に戻る↑ :