コーパル樹脂について
このところ、ずっとコーパル樹脂のことを考えていました。ダンマルの名称、原産樹木なども問題も複雑で、混乱の元となっているとはよく言われますが、コーパルよりはずっとマシであると言えるでしょう。コーパルという名称は、現在のメキシコあたりの原住民が使用していたコパリという言葉がスペイン人を介してもたらされたという話です。現地人にとっては樹脂全般を意味する言葉で、現代のような植物の分類もなく、自分たちの土地の樹木の樹脂をそう呼んでいたのでしょう。これはdamarという言葉が、東南アジアの現地人の間で樹脂全般の意味で使われていたのと共通しています。「コーパル」はやがて、国際市場では硬質で融点が高い樹脂を示す用法が定着しますが、どのような変遷をたどってそこに至ったかははっきりしないようです。名称の由来は中南米で、産地として有名だったのはアフリカ、しかし現在使用されているのは東南アジアという経緯があったと考えると、地域の違いや、樹木の種類の違いも大きく、さらに、地面から掘り出されるものと、生きている樹木からタッピングで採られるものがあり、その違い、主に経年による変化かと思いますが、それも含めると、コーパルは性質や特徴が幅が非常に広い材料だといえるでしょう。ダンマルは東南アジアが舞台であり、タッピングで採取されるものに絞られますから、コーパルと比較すると、まだわかりやすい部類だと思います。

現在、絵画用に使われているのは、東南アジアのマニラコーパル、しかも生きている樹木からタッピングで採取されるものだそうなので、それだけをカバーしていればいいとも言えますが、かつて絵画技法書などで論じられたのは、おそらくアフリカ産のコーパルのことだと思います。ヨーロッパが植民地支配していた頃の話ですが、アフリカの各種コーパルは、現在のマニラコーパルよりも硬質で融点も高く、ニス用途に優れていたと思われます。絵画に使われている天然樹脂の中では、ダンマルが最も広範囲に調合画用液に使われていると思いますが、最も人気のある樹脂はコーパルなんじゃないでしょうか。ルフラン社の画用液にも含まれているものが多く、やはりそれはアフリカのコーパルを使っていた頃からの伝統なのではないか、という気もします。どの時期にアフリカのコーパルを多用していたかというのは、気になるところです。この辺はまだあまり知らべていないので、まだまだ語るには時期尚早なのですが。

コーパルといえば、琥珀に至ってはいない段階の半化石樹脂ともいわれていますが、東南アジアのコーパルはかつては、地面から取るものもあったものの、今は生きている樹木から取っているということで、この半化石樹脂という定義は必ずしも当てはまらないようです。コーパルの説明では、生きている樹木から取るが、地面に埋まっているものを取ることもあるという記述をよく見かけますが、少なくとも半化石樹脂というものになるには、相当な年月が必要で、森の生態系が変わったり、森そのものすら無くなって久しい的な状況ではないとおかしんのではないか、という気がしていました。地面から採取方法はアフリカ各地や他の地域でも、だいたいは先を金属で強化した棒で地面を引っかいて集めるぐらいの記述であり、その深さも1メーターということもあれば、たった数センチというのもあって、不思議に思っていましたが、最近読んでいるPLANT RESINSによれば、ザンジバルコーパルに次いで硬質だと言われるコンゴコーパルもおそらく半化石化に必要な年齢(5000-40000年)に到達していないかもしれないと述べています。コンゴコーパルですら半化石樹脂でなければ、厳密に半化石樹脂とされるものは、コーパルの中でも一部のものに限られるのではないか、という気がします。マダガスカルコーパルにおいては、半化石樹脂として売られていたものを調べてみたところ、50年ほどしか経過していないものだったという例もあったとか。

アフリカのコーパルについていろいろ話たいことはあるのですが、それは控えるとして、現在入手可能な東南アジアのコーパルに限ると、フィリピンのマニラコーパルと他にニュージーランド北部のカウリコーパルがあるそうですが、販売されているものを購入してみました。
コーパルカウリ
商品説明には、化石樹脂と記述されておりましたので、そうだとしたら、なかなか稀少な製品かと思います。

そして、ランニングアンバーも販売されていましたので、注文してみました。
ランニングアンバー

カウリコーパルは実際に使用するかどうか(というより使用できるのか)は今のところわかりませんが、ランニングアンバーであれば、テレピンに溶解するのならば、すぐにでも画用液として使用可能なので、近々試してみたいかと思います。絵画用のアンバー画用液も売られているのですが、価格が高すぎて試せなかったということもあって、楽しみです。

| 絵画材料 | 10:12 PM | comments (0) | trackback (0) |
ダンマル樹脂について
引続き、”Plant Resins: Chemistry, Evolution, Ecology, and Ethnobotany”を読み続けています。必要な箇所だけ拾い読みするつもりでしたが、植物由来の抽出物全般に関してたいへん詳しく書かれており、もはや全体を読まずにはいられないところです。マスチック樹脂に関しては、メギルプ制作実演と一緒にマスチックについて語るという動画を鳥越一穂氏と収録したので、そのうち公開されるかと思います。鳥越氏自身はマスチックを使用しておらず、コーパルを含む画用液を調合して使っているとか。

しかし、私は今はダンマルについて読んでいます。マスチック樹脂の定義や採取植物についての問題というのも、いろいろ整理が大変ですが、それよりも遥かに混乱しているのが、ダンマルです。ダンマルは絵画用の天然樹脂としてはたぶん最も一般的なものですが、どのような植物から採れるのか、案外はっきりとわからないものです。少なくともマスチックは最良の物はキオス島南島のPistacia lentiscusであるということは、はっきり述べてもいいかと思いますが、ダンマルの方が複雑怪奇です。ダンマルが、というよりは、コーパルも含めて東南アジアの樹脂の名称が全般的に複雑なのですが。

というわけで、”Plant Resin”を読みつつ、私なりに現状の認識で整理していきますと・・・、ダンマルの採取源となる植物ですが、東南アジアのフタバガキ科に属する植物が主たる採取源で、ネット上を検索した限りでもそのように書かれてあることが多いようです。しかし、その他植物の樹脂もダンマルと呼ばれることがあり、用語としてのダンマルは非常に曖昧で混乱を招く原因となっています。”Plant Resins”によると、そもそもはマレー人が樹脂で作った燈火をダンマルと呼び、それが樹脂全般を指す言葉と転訛していったということです。やがてヨーロッパと大規模な取引がされる中で熱帯アジアからの樹脂をdammarと呼ぶようになった云々とあります。
ダンマル樹脂
フタバガキ科の他、カンラン科(burseraceae)も挙げられています。カンラン科ではプロティウム属(Protium)、フタバガキ科では、サラノキ属(Shorea)が特に採取源として言及されている。サラノキ属には仏教寺院に植えられることで有名なサラソウジュ(沙羅双樹、学名Shorea robusta)が含まれます。ちなみに、私の自宅にも2本の沙羅が植えられいますが、実は日本の沙羅は、ツバキ科のナツツバキで、耐寒性の弱い沙羅双樹の代用として植えられた為に沙羅とも呼ばれるようになっただけの模様です。ちなみに赤い染料で知られるスオウ、これも日本でスオウという木がたくさん植えられていますが、実はハナズオウというもので花の色が赤いというだけで別の樹木です。アラビアゴムが採取されるアカシアも、日本の北の方にまで植えられていたりしますが、実はニセアカシアという別の木だったりするのと似たような例といえるでしょう。

マレー諸島の東、乾燥した土地の生えるAgathisが、はじめdammaraという属に分類されたそうです。植物の科、属、種などは随時更新されるので現状どうかはわかりませんが、wikipediaを見たところでは、Agathis dammaraという学名の樹木もありますね。さて、Plant Resinsによると、この樹の樹脂を現地ではダンマルと呼ぶが、市場ではコーパルと呼ばれるものであると書かれてあります。そのように樹脂名及び採取源の植物の名称の関係はパズルのように複雑に入れ乱れていますが、特に医療用途では個々の植物へのアレルギーなどありますので、深刻な問題のようです。画材店向けではあり得ませんが、アロマ用品のショップでは「ダンマーコーパル」という商品があったりして不思議に思ったことがありますが、ダンマーを樹脂全般の意味で使ったとしたら、そんなにコーパル樹脂ぐらいの意味で、とくにおかしなことはないのかしれません。いずれにしても、画材店で販売されているものを利用する分には、専門家が取り扱っているものなので、特に名称の問題や採取源など気にすることはないですけれども。

語源の事で触れられたダンマーを利用した燈火ですが、Plant Resinでは、マレー人の古来からの使用法として照明に関して触れています。粉砕したダンマル樹脂をバークチップやウッドオイルと混ぜて、パームの葉で包み、0.6mからそこらの長さの円筒状の細いロウソクにすると書かれてあります。

こんな情報なんの役に立つのかわかりませんが、しかし、マスチックは聖書などの書物に登場し、ダンマルは釈迦入滅の際に出てくる樹木から採れるということで、世界史、特に古代史が好きな私としてたいへん興味深いところです。

| 絵画材料 | 12:50 AM | comments (0) | trackback (0) |
マスチック樹脂について
お盆休み的なものに突入するし、普段は読む気にならないような分厚い洋書の1冊でも読んでおかなければいけないような気がして、今回は以下に挑戦してみることにしました。
Jean H. Langenheim(著)”Plant Resins: Chemistry, Evolution, Ecology, and Ethnobotany”Timber Pr (2003/4/30)
PLANT RESINS
ハードカバー: 586ページでボリューム感がありますが、でも、絵画に使われている樹脂はある程度限られているので、必要な部分をピックアップして読んでいくわけですが、鳥越一穂氏と樹脂に関する動画を撮ろうと計画しているところなので、むしろパパパっと素早く目を通さねばならないのかもしれません。樹脂に使用に関しては、実際にいろいろ試しているので、それなりの経験に基づいて語れますが、それらの樹脂はいずれも遠い国から輸入されてきたものであって、実際どういう木から採れるものかというのをあまり知らないので、そういう点を整理しておきたいという気持ちが以前からあったのですが。

ひとまず、マスチック樹脂の項から読み始めました。我らがマスチックは、Pistacia lentiscusから採取される樹脂だそうですが、この木はウルシ科のカイノキ属。針葉樹の顕花植物で、常緑で雄雌異株(オスとメスで別れる)とあります。地中海全般に分布するようだが、中世に主にマスチック樹脂が採取されたのはキオス島のものだという。和名ではカイノキが最も近そうで、苗も売られているのですが、しかし落葉高木だったり、いろんな種類があって、頭を整理するのは大変そうです。

youtubeにはPistacia lentiscusの盆栽の映像が投稿されています。

木の形はウルシとは似てないけれども、葉の並び方はウルシタイプですね。Pistacia lentiscusの苗、日本で手に入るなら是非とも欲しいところです。
Pistacia lentiscusの動画らしきもの↓


Pistaciaという名前の通り、ピスタチオの実がなる樹木の仲間であるようである。ただし、お酒のつまみとしても食されるピスタチオの実が成るのはPiatacia veraという種類であり、マスチックの木の実の方は、ちょっと違うようである。
Piatacia veraの動画らしきもの↓


話が逸れるけれども、興味深いのはテレビンノキとして知られるPistacia terebinthus。テレビンと言えば、カラマツ属、モミ属などの大きなマツ科の針葉樹から採取されるもというイメージが強いが、初期にはこのテレビンノキから採られていたものらしい。ふと気になって、チェンニーニがウルトラマリン抽出で試用していた松脂はどんなものかと思ってイタリア語の刊行版をあたってみたが、pinoの樹脂と書かれてあったので、これに関しては松から採られたのだろう。ちなみに、テレビンノキは旧約聖書に登場する。
Pistacia terebinthusの動画らしきもの↓


マスチック生産は、キオス島と言っても島の東南の角、Pistacia lentiscus Var. chiaが生い茂る箇所に限定されるようで、他の場所で採取されたものは、しっかり育った木から得たものでも質は劣るということである。ということは良質のものは供給量が限られるので、価格が高いのも仕方がないかもしれないし、絵画用のマスチック樹脂でも、質の良いもの、悪いものなど差があるのは、この辺にも起因するかもしれない。雄雌異株と書いたが、マスチック採取に使われるのは雄株の方で、雌株の樹脂は劣っている。さて、PLANT RESINSではこの後は実際の採取方法、用途や歴史などについて延々と述べられており、絵画用としては、リンシードオイル、揮発性のテレビン油などと混ぜてゼリー状のいわゆるメギルプを作るというところまで書かれてあり、興味は尽きないところですが、化学的な部分はなんだかんだで読むのが難しい。

| 絵画材料 | 01:50 AM | comments (0) | trackback (0) |
キビ、アワ、ヒエを炊いて食してみた
キビ、アワ、ヒエなどの雑穀を食べてみたいと以前から思っていたのですが、ようやく実行できました。

これらの雑穀ですが、米の生産性が劇的に良くなったので今は食されることはないですが、私の親の世代では子供の頃に何かの機会で利用されることがあったようです。ただ、ほとんど覚えていないようですが。米に比べて食味が劣るとされ、昔の農民の領主に搾取されていたので、ヒエ、アワを食べていたとか、そんな説明がされたりすることがありますが、食べたらそんなに不味いのか、というのを実際に体験して確認したいと思っていまして。
しかし、巷のスーパーなどで売られているのは、雑穀をブレンドしてお米に混ぜて炊くような商品ばかりで、各雑穀単体の商品というのはなかった為、ネットで「こだわりの岩手県産雑穀三種のセット」というのを買ってみました。
http://item.rakuten.co.jp/iwate2/000349-005/
それぞれの雑穀を単体で食べないと、食味などわかりませんからね。
届いた商品です。左からキビ、アワ、ヒエ
雑穀
商品の説明には、お米と混ぜて炊く方法がまず紹介されていますが、ページの下の方を見ると、簡単に雑穀のみで炊く方法が記述されています。要約すると、よく洗ってから1.5倍の水に混ぜてふやかし、ラップでフタをして電子レンジで7分加熱する、という具合です。

さっそく、雑穀を容器によそってみました。
雑穀

米をとぐようによく洗い、雑穀の重量の1.5倍の水を入れます。
雑穀

そして電子レンジで加熱したところ、以下のようにふんわりと、もっちりとした感じに炊きあがりました。
雑穀

キビです。
雑穀
なかなか美味かな、と最初は思ったのですが、すぐに苦みを感じます。ただ、苦いというのは個人的にはわりと平気ですが。

こちらはアワ。
雑穀
非常にもちもちとして、食感、食味ともに良好です。というか、すばらしく美味しいと思います。

つぎに、ヒエ
雑穀
実はちょっと手こずりました。上手く炊けずに、水を追加して再加熱するなどして炊きあがりましたが、単に私が慣れていないだけかと思います。
特に食味として、前二者とくらべて、そんなに強い個性はないように思いました。普通に美味しいと思います。

盛りつけてみました。
雑穀

もしかしたら品種改良等により、昔の人が食べていたものとは違うのかもしれませんが、今回試した分には、決して不味くはないうえに、アワはびっくりするほど美味しかったです。ちなみに、炊いてからの姿はアワもヒエもすごく似ていて、画像見てたら取り違えちゃってるかも、とか少し心配になってきました。あと、雑穀の色をはっきり撮影したかったので、百均で買った白い器を使って試したのですが、水を入れたりなんだり重さを量る作業をしていて気が付いたんですが、同じ製品なのに重さが全然違ってて、ちょっと驚きましたが、まぁ、プラスチック製品じゃないから、これが普通なのか。百均に限らず、磁器陶器を実験に使うときは重さをきちんと確認するか、理科用品にしないといけませんね。

| その他 | 08:57 PM | comments (0) | trackback (0) |
鹿の角から膠をつくる
以前、羊の角から、膠を作ろうとして失敗したことがありました。
詳細:http://www.cad-red.com/blog/jpn/index.php?e=1080

あれからだいぶ月日が流れましたが、テオフィルスの書にも書いてあるとおり、鹿の角で試してみておかねばと、以前から考えていました。鹿膠というのも売られていることだし。今回の目的はあくまで「角から膠をつくることができるか確認したい」ということだけですので、念入りにデータを記録したりなどはしておりません。なお、本当は冬にやろうと思っていたのですが、ぼやぼやしているうちに四月になってしまいました。というか、数年間ぼやぼやしてたわけですが。

手順は、かつて牛の皮から膠を作ったときと変わりませんので、詳しくはそちらを参照してください。
詳細:http://www.cad-red.com/blog/jpn/index.php?e=928

今回使用したのは、数年前にヤフオクで入手していた鹿角です。
鹿角膠

ちなみに、角の断面はこんな感じです。
鹿角膠

↓のような電ノコで1cmくらいの厚さに輪切りにしました。
鹿角膠

鹿角膠

テオフィルスでは粉々にした牡鹿の角とありますが、粉々というのも大変そうだなと思いまして。粉々ってどうやってやるんでしょうね。ちなみに電ノコで切るとすっごい臭いです。獣が焼ける臭いでしょうか。切っていると粉もたくさん発生しました。輪切りの角で失敗したら、粉を使ってみたいところですので、とりあえずとっておくことにしました(結局輪切りでうまく膠がとれたので使用せずに破棄しました)。

輪切りの角270gと水500gをグリル鍋に入れて加熱します。
鹿角膠

温度が上がってくると同時に、なんかすごく膠臭がしてきて、さらに膠色のもやっとしたものが湯の中ににじみ出して、これはいけそうだという手応えがありました。羊の角は、全く無反応でしたからね。最初沸騰させ、その後保温状態でというのを考えていたんですが、目を離したすきにまた沸騰してたりして、お湯の温度管理は今回かなりいい加減になってしまいました。

2時間ほど加熱のを保ち、熱い状態にしてみました。
鹿角膠
途中、水が蒸発して少なくなってきたので、100mlほど水を追加、そして、比較的厚く切っていた角を取り出して、さらに加熱を続けました。

で、水がだいぶ少なくなってきたところで角を取り出し、ガーゼで濾しつつプラスチックの容器に移しました。
鹿角膠

ちょっとテーブルにこぼしてしまったので、それと顔料を混ぜて紙に塗布してみることに。
鹿角膠

乾燥後しっかりと顔料が定着されておりました。
鹿角膠

数時間後、プラ容器に入れた膠を確認したところ、一応ゲル化している様子がみられました。
鹿角膠

しっかりと測ったわけではありませんが、牛皮よりは採れる量は少ないと感じました。しかし、予想していたよりは膠が採れるものなんだなとも思いました。獣の皮は事前の処理が大変ですが、角であれば、皮の時に比べて下ごしらえが楽であるかと思います。最低限、砕くか、切るかして煮ればよいのですから。

| 絵画材料 | 10:38 PM | comments (2) | trackback (0) |
ウィキペディアの「なぜ私は私なのか」のページが良質なガイドになっている気がする件
人間の感情や思考、記憶などは、たぶん脳の活動によって発生しているのだろうけれども、なんというか、説明しにくいのですが、普段はあまり意識しないけれども、自分という意識がなんなのか、深く考えるとどうしても不思議でならないことではあります。同じような人間やあるいは脳を持った生物が多数存在していますが、生まれてからずっと自分は自分で、自分の頭の中から外界を認識しているようで、目を通して外を見て、手を動かして物を触ったりしています。眠って朝起きても自分であり、自意識みたいなものが自分の脳にあって、頭の中に存在しているように思える。しかし、この自意識みたいなものはどのような現象なのでしょうか。生物が複雑に進化して思考能力や感情を持つようになったというところまでは、特に何も不自然な点はなく納得できます。例えば、生物が無数に存在し、それぞれが思考し、意志と感情を持って行動しているという点は、そういうものだということで済むでしょう。脳の機能が電気的、化学的な反応で動いているとして、それによって人間が活動しているとしましょう。自分という人間が居て、そのような電気的・化学的反応で勝手に行動して生涯を終えるならわかるのですが、この自意識みたいなものはいったいどのような存在なのかと疑問も思うわけです。

で、この問いは哲学の1ジャンルであり、「なぜ私は私なのか」という問いによって表されるようです。

参考:なぜ私は私なのか ウィキペディア
http://ja.wikipedia.org/wiki/なぜ私は私なのか

「なぜ私は私なのか」という問いは、時間とは何かという問いと切り離せません。時間に関して非常に不可解な点があるからです。宇宙の始まり、言い換えれば時間の始まりを仮に150億年前とするとし、そして仮に終焉があるとして150億年後と見積もった場合、全体で300億年あることになります。その中で、偶然にも今現在自分が生きている数十年の一瞬とも言えるようなわずかな時間が、少なく見積もっても300億年はある可能性の中の、たまたま今であるというのは、偶然にしてもいくらなんでも出来過ぎているのではないか。自分が存在する時間のまだずっと前か、とっくに終わって何億年も経った後だったりする方が自然ではないでしょうか。

これらの問題に明確な解答はありませんが、古くから人類よって考察されてきたので、答えを求めたいと思うならば、アプローチとしては、その経過をたどっていくことが順序としては正しいといえるでしょう。そんなときに役に立ちそうなのが、ウィキペディアの「なぜ私は私なのか」のページであり、つい最近見つけたのですが、とてもよくまとまっているような気がしました。参考文献も多数掲載されており、この問いが発生してしまった人には、よいガイドブックとなるのではないでしょうか。ちなみに問いの発生率は10人に1人らしく予想以上に高確率な模様です。私が学生だった頃は、ウィキペディアなんてありませんから、書店に行って名著と言われる哲学書を多数買ってみたりしたのもよい思い出ですが、いま振り返ってみると、まるで見当違いの本を読んでいて、たいへん効率の悪い読書をしていたといえるでしょう。まぁ、それはそれでいいのかもしれませんが。

最近は科学的にも取り組まなければならない問題となってきている模様です。
参考:意識のハード・プロブレム ウィキペディア
http://ja.wikipedia.org/wiki/意識のハード・プロブレム

上記の記事によると「意識のハードプロブレム(いしきのハード・プロブレム、英:Hard problem of consciousness)とは、物質および電気的・化学的反応の集合体である脳から、どのようにして主観的な意識体験(現象意識、クオリア)というものが生まれるのかという問題のこと。意識のむずかしい問題、意識の難問とも訳される。オーストラリアの哲学者デイヴィド・チャーマーズによって、これからの科学が正面から立ち向かわなければならない問題として提起された。対置される概念は、脳における情報処理の物理的過程を扱う意識のイージープロブレム(Easy Problem of Consciousness)である」ということです。

| その他 | 09:14 AM | comments (0) | trackback (0) |
ラピスラズリからのウルトラマリン抽出 3:灰汁の中でパテを捏ねる
前回はラピスラズリ粉末と、松脂、マスチック樹脂、蜜蝋によるパテをつくったところで終わりました。パテづくりから10日ほど経っておりますが、チェンニーニによるとこのパテはかなり長く放置していても作業に支障はないようです。

いよいよ灰汁による抽出です。
今回も基本的に金沢美術工芸大学の論文(金沢美術工芸大学紀要 50, 120-111, 2006-03-31)に沿っております。
また、既に鳥越一穂先生が、同様に実践してブログに投稿されておりますので、そちらも参照しつつ行ないました。

論文に沿り、灰の代わりに炭酸カリウムを使用します。
ウルトラマリン抽出
1000ccの水に4gの炭酸カリウムを入れました。

温度は40℃強ではじめて、35℃前後になったところで、温め直しつつ、20~30分くらいを目安に捏ねます。
ウルトラマリン抽出

数分で灰汁の温度が下がってくるので、熱い湯を入れた鍋に入れて、湯煎のような状態にして、ときどき温度を上げました。
ウルトラマリン抽出

20分揉みましたが、青い顔料が出てくる気配は全くありません。全く、です。
ウルトラマリン抽出
が、しばらく待って沈殿したら、底の方にわずかですが、青い顔料が溜まっていることに気がつきました。
パテが白くなってしまい、もう既に青い顔料が無くなっているのかと心配になってきました。

5分休憩したあと、別の器に新たな灰汁を入れて、捏ねはじめました。
2回目はどんどん青い顔料が出て、底に溜まってゆくのがわかり、楽しい作業となりました。
ウルトラマリン抽出
左が1回目、右が2回目です。

↓25本ほど捏ね続け、沈殿したのち上澄みを捨てたところです。
ウルトラマリン抽出
すっごい、鮮やかな青ですね。

私は2回目を終えたところで、力尽きました。
パテがだいぶ白くなっているのですが、3回目いけるのでしょうか?
ウルトラマリン抽出

もう一個のパテも後日試そうと思います。
予想なのですが、灰汁の濃度や温度の影響もあるのかもしれませんが、それよりも最初のうち青い顔料がなかなか出てこないというのが普通であって、それは気にせずに2度目以降に期待するべきものなのかもしれません。濃度や温度が高いと、青以外の部分や、パテの成分などの不純物も多く沈殿しそうなので、次回はやや濃度を低く、そして温度も上げすぎない状態で、粘り強く捏ね続けてみようかと思います。



| 絵画材料 | 03:41 AM | comments (0) | trackback (x) |
ラピスラズリからのウルトラマリン抽出 2:パテづくり
前回、ラピスラズリを砕いて粉末化したところで終わりました。
細かく砕いて顔料にしましたが、灰色の不純物が多く含まれており、砕いただけは、写真の通りで、濃い青には見えません。
ウルトラマリン抽出

この中から青い部分を取り出さなければならないのですが、中世の画家であるチェンニーニが書き残した方法で行ないます。一言で説明すると、松脂などの材料でつくったパテに顔料を入れ、熱い灰汁の中で練っていると、青い部分だけ外側に出て、器の中に溜まるという方法です。

従って、今回の工程はパテづくりです。パテの材料は松脂、マスチック、蜜蝋です。
ウルトラマリン抽出

前回より参照している金沢美術工芸大学の論文では、重量比にて下記の通りと書かれています。
 ラピスラズリ:4
 松脂(バルサム)2
 マスチック:1
 蜜蝋:1

論文では、松脂をロジンとして進めていますが、当サイトの掲示板にて、かつてmiyabyo氏がロジンではなくバルサムではないかとコメントしており、確かに理にかなっていると思われるので、バルサムで実行してみます。
実は、この件は既に画家の鳥越一穂氏が、ブログで書かれていますので、ほとんど後追いでの検証になります。
鳥越氏と同じ処方になって心苦しいところもありますが、わかりやすく以下の重量で試してみます。

 ラピスラズリ:4g
 松脂(バルサム)2g
 マスチック:1g
 蜜蝋:1g

松脂(バルサム)ですが、画材店でヴェネツィアテレピンの名で売っているのですが、よく観察するとメーカーによって粘度が異なります。成分表を見ると、どうもガムテレピンを再投入して柔らかくしているようなものもあるようなので、手元にあるのを見比べて、高粘度のものにしました。柔らかすぎるとパテになるまで、ガムテレピン成分を揮発させねばならず、処方が変わる恐れもあるので。
ラピスラズリ粉末は、11g用意してあるので、2回ほどパテづくりをしてみたいと思います。

小さなステンレスボウルに材料を全て入れたところです。
ウルトラマリン抽出

保温プレートの上で熱します。
ウルトラマリン抽出
保温プレートは、ほんとに保温程度の温度しか出ないのですが、軟質樹脂くらいは溶かすくらいの温度になります。
松脂は誤って火が着くと、黒煙を吐きながらすごい勢いで燃えるので、安全面も兼ねて、こちらでやってみたのですが、でも実はマスチックが溶けてくれるかは、ちょっと心配でした。

無事、溶けて混じりあっているようです。
ウルトラマリン抽出

保温プレートから下ろして、冷めるのを待ったのち、プラスチックのナイフで掻き取りつつ、丸めていきます。
ウルトラマリン抽出

このようなパテができました。
ウルトラマリン抽出

重さは6gです。
ウルトラマリン抽出
2g減ってますが、ステンレスボウルに残った分と、若干テレピンが揮発した分かもしれません。

2回ほど実施。
ウルトラマリン抽出
2回目では、うっかり松脂を1g多く投入してしまいましたが、そのせいで、パテが柔らかすぎて、まとめるのがすごく大変でした。バルサムを使う際は、多めに入れてはいけないと思います。また、充分さめて、ちょっと固くて取りづらいかな、という頃合いに取り出してパテにした方が、指にまとわりつかなくていいと思います。

次回は、いよいよこのパテから青い顔料のみを抽出する、という工程になります。

| 絵画材料 | 05:58 PM | comments (2) | trackback (x) |
ラピスラズリからのウルトラマリン抽出 1:ラピスラズリ粉砕
ラピスラズリという青い半貴石は世間一般でも有名ですが、かつてその石から複雑な手順で青い絵具を作り出していたということを知っている人は少ないと思います。西洋絵画では非常に重要な役割を果たしていましたが、石自体が遠くアフガニスタンからもたらされるもので稀少であり、且つ青い部分だけを取り出すのに手間がかかるので、大変高価な絵具となっていました。ラピスラズリは不純物を多く含んでおり、石を砕いただけでは、薄い空色ぐらいの色にしかならず、そこから青だけを取り出す技術が必要だったのです。今は合成で作られているので必要ない技術ですが、昔の青の価値は計り知れないものがありました。

青い部分だけ取り出した顔料をウルトラマリンと呼びます。今回の実験は、ラピスラズリからウルトラマリンを抽出する、ということになります。その抽出方法のひとつが、中世末期に書かれた、チェンニーニによる絵画技法書に記されているのですが、その方法をベースに抽出をやってみたいと思います。すでに複数の方がネットで公開されているので、この記事の希少価値は小さいと思いますが、私も参戦したいなという思いが以前からありまして。。。

主な参考資料は、「天然ウルトラマリンの抽出1」(平成十七年度共同研究報告) 金沢美術工芸大学紀要 50, 120-111, 2006-03-31です。
チェンニーニの方法によるラピスラズリ抽出について書かれておりますが、概要は上記の論文を読むのが一番だと思います。
以下よりダウンロードできます。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110004830201

その他、画家の鳥越氏が実行した際の様子がブログに公開されております。
http://torilogy.exblog.jp/tags/%E5%A4%A9%E7%84%B6%E3%82%A6%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%9E%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%81%AE%E6%8A%BD%E5%87%BA/

で、ラピスラズリです。
ウルトラマリン抽出
もっと良いサンプルもあったのですが、あえて不純物の多そうなものを選びました。うまく青だけ取れるのか、見たいというのが主な目的ですし、慣れないうちに良い石を使うのももったいないので。

まずはラピスラズリをハンマー等で細かくしてゆきます。細かくする度に、青の部分が多いものを選んで、灰色の部分は除いてゆきます。
数ミリ大に細かくなったところで、乳鉢と乳棒に切り替えて進めます。
ウルトラマリン抽出
論文では磁器製の乳鉢では難しいとありましたが、少量を試すだけなので、磁器製乳棒、乳鉢で砕いてゆきます。

乳鉢を使って砕いているとわかりますが、綺麗に均一に砕けてくれるわけではありません。ときどきフルイにかけて、既に細かくなった顔料を選別します。そうしないと、細かく成りすぎて、色が弱くなってしますのです。
フィルターには、シルクスクリーン用の化繊布を使用しました。200メッシュです。
ウルトラマリン抽出
これをキャンバス用の木枠に張って、

ウルトラマリン抽出
上に粉砕した顔料を載せて揺すると、細かいものだけ下に落ちます。

ラピスラズリを挽いてはフィルターに通すという作業を、延々と繰り返すこと数時間。
こちらが、用意できたラピスラズリ粉末。5gです。
ウルトラマリン抽出
すっごい時間がかかりました。
やはり青の濃さに欠けていますが、これがしっかり青になってくれるかどうか、楽しみです。

次回はパテづくりです。
上記の論文では、松脂をロジンと解釈して進めていますが、当サイトの掲示板にて、かつてmiyabyo氏がバルサムではないかとコメントしており、確かにそちらの方が理にかなっていると思われるので、バルサムで実行してみます。

| 絵画材料 | 05:29 PM | comments (0) | trackback (0) |
膠文化研究会主催第6回公開研究会
下記のような公開研究会が開催されるという情報を頂きました。

膠文化研究会主催第6回公開研究会
http://nikawalabs.main.jp/index/?page_id=36
2014年12月13日(土)東京藝術大学美術学部中央棟第1講義室

Webサイトによると、主なプログラムは以下のようになっています。

○「膠と密接な皮革製造工程と当センターの取り組みについて」
原田 修 兵庫県立工業技術センター皮革工業技術支援センター 技術課長

○「膠製造業を取り巻く環境 ― 日本から膠が消える?」
福島 隆 宏栄化成株式会社代表取締役

○「カンヴァス目止め剤としての膠」
船岡 廣正 日本画材工業株式会社代表取締役社長

西洋絵画材料的に最も気になるのは船岡社長の講演といえますが、他2つも注目しております。
たいへん興味深い内容なので、参加申込しようと思います。

| 絵画材料 | 08:41 AM | comments (2) | trackback (0) |

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